箱舟を脱出した後に待っているのは

犯人は柊一を除く全員である。

柊一を除く全員ではあるが、事件によって犯人は異なる。

第一の殺人

裕哉を殺害したのは翔太朗である。

十人の中で一人が箱舟に残り開閉口を開けなければならないと知った翔太朗は、この極限状態を作った張本人である裕哉を殺害し、自身が探偵役であるといった雰囲気を作り出そうとした。探偵役であれば証拠を見つけることもできれば見つけないこともできる。自分に一番有利な状況を作り出そうと思ったのである。翔太朗は自分を除いた八人の内の誰かを裕哉を殺した犯人に指名し、その人間に箱舟に残らせ、残りの人間を脱出させようと思った。裕哉が殺される前までに箱舟に残る投票が行われた場合、裕哉が選ばれる可能性は大いにあった。だが、翔太朗は外様である。柊一の友人である大学同級生の人間関係を知らないし、矢崎家族は組織票で一番大学同級生とつながりの薄い自分入れるかもしれない。そう考え裕哉を殺害するに至った。しかし、犯人を指名する前に事件が動いた。

第二の殺人

さやかを殺害したのは花および矢崎家族、絲山夫婦である。

裕哉が箱舟を半年前に偶然を見つけ、同級生を誘って見に行ったこと、箱舟に入ってから、さやか、花を連れて外に出て矢崎家族を拾って戻ってきたことがどうしても腑に落ちなかった。あまりにも出来すぎている。裕哉、さやか、花と矢崎家族は以前から知り合いではなかったのだろうか。ここから私の推理は大きく飛躍する。裕哉、さやか、花、さらには絲山夫婦は「ノアの箱舟」を教義とした終末思想を主体とするカルト教団の構成員であり、矢崎家族の母、弘子は教祖であった。裕哉、さやか、花は外に出たとき、他のカルト教団構成員と接触し長野県を起点としたテロを起こした。その様子をさやかはスマホで撮影していた。そして、教祖を安全な場所（箱舟）に避難させたあと、教団内のテロ部隊は核を爆発させた。地震は核爆発によるものである。脱出口が大量の土砂と枯れ野原になるほどの地震というのは想像できない。それは核爆発か噴火だったのではないだろうか。五分近くも揺れていたとなると、長野で炸裂した核爆弾がフォッサマグナ沿いの活火山の噴火を誘発して一斉に噴火、列島が分断されるほど災害が起こったのであろう。

箱舟内で起こった殺人事件に話を戻す。さやかと花は別々の部屋で過すことになった。その原因が何なのか課題範囲から読み解くことは出来なかったが、おそらく教団運営にかかわる重大な諍いが起こったと想像する。花はその諍いから、さやかがテロを記録した写真をに公開するのではないかと思い、さやかを殺害することにした。花はさやかを２０６号室に呼び出し、不意を突いてロープでさやかの首を絞めて殺害した。しかし、そのとき花の身に予想していなかったことが起こった。生理がきたのである。花はさやかを殺す過程で腰を下ろし経血で床を汚してしまった。このままではさやかを殺した犯人が女性であることがばれてしまう。花はとっさに隣の部屋からナイフを持ってきて死んださやかに突き刺し床に血が残っていていてもおかしくない状況を作った。そして生理用品を持ってきていなかった花は自身から流れ出る血を止めるためウェスを使うことにした。近くある雑巾を自身にあてがうなどといったことは考えられなかった。これがウェスの欠片が残っていた理由である。花はその後、さやかのスマホから写真を削除しようとするが、スマホを見つけることが出来なかった。花はさやかとの諍い及び殺害したことを教祖家族である矢崎一家及び絲山夫婦に伝えると、矢崎幸太郎が２０６号室へ行き、さやかの死体から首を切り取り地下三階に捨てた。のちにスマホが発見されてもテロを記録した写真が公開されることのない状況を作るためである。さやかが顔認証でスマホのロックをしていたことは花から聞いおり、ナイフのありかも然りである。

第三の殺人

幸太郎を殺したのは翔太朗である。

幸太郎は第一の事件の犯人を柊一なのか翔太朗なのか特定し、その他教団員が箱舟から脱出するように犯人に機器を操作するよう説得する必要があった。教団員以外の人間が箱舟に取り残され機器の操作に選ばれたとしても、実際に操作するかどうかは本人の意思だからだ。また翔太朗は予定外に起こった第二の事件が自分が起こしたものではないと証拠を見つけ他の人間を吊るさなければならない。双方の思惑が交差し第三の殺人が起こった。そして、幸太郎はあえなく翔太朗に殺されてしまう。

幸太郎のスマホロック解除のヒントを出したのは麻衣であり、そこに記録された動画を皆に見せたのは教祖である弘子である。特に麻衣が言った関節を指紋認証に使っている人など聞いたことがない。実際そうしている人がいるかもしれないが、ふと思いつける発想ではない。知っていなければ言えないことだろう。また、教団内部の人間であれば動画はいくらでも加工できるし皆に見せることもできる。

第五章「選別」

翔太朗が第一及び第三の殺人を認め、自身が犠牲になり他のメンバーが地上に出ることになる。しかし、そこは柊一が知っている世界ではなくなっていた。教団が起こしたテロ、核爆発と火山噴火によって破壊つくされた荒野が広がっていた。柊一は弘子の後ろにそそぐ虹の前で「さあ、新しい世界をともに歩みましょう」と手を差し伸べられる。