年末年始
「よぉ、お前なにやってんの。いつまでそんなことしてんだよ。なぁ、そんなことしててなんにもなんねぇよ。よぉ、聞いてんのか、なんとか言えよ、こら」
日を遮って薄暗い部屋の、さらに暗い影から、そいつは話しかける。しわがれてねちっこく、まとわりつくような声。
「なぁおい、こっち見ろよ、無視すんなよ、意気地なしめ。そんなんだからダメなんだよ、お前は」
僕はベッドの上で、膝を抱えてカーテンを見つめる。あいつがいる影には目も向けていない。
「お前自分でもわかってんじゃねぇの。だからこっちのこと見れねぇんじゃねぇの」
こいつがどこから来たのかはわからない。いつからいるのかもわからない。気づいたときにはここにいて、僕のことを責め立てていた。
もう、何日になるのか。今が、何月何日なのかもわからない。
「そうやってよぉ、何からも逃げ出してよぉ、時間が経つのをただ待ってるだけでよぉ、お前、なにか得るものはあったのかよ」
……わかってるよ。
「なんにもできなくてよぉ、なにかができるようにもなんねぇでよぉ、お前、これからどうするつもりなんだよぉ」
……うるさい。
「そんなんだからこんなことになってんじゃねぇかよぉ。お前からは何もしない、言わない。誰かに話してもらったり気にかけてもらったりすることばかり期待してよぉ。そりゃあ誰もが離れて行くだろうさ」
……うるさいうるさい。
「寄りかかりすぎなんだよ、お前はよぉ。自分ではなにも返さねぇ。お前、そういうのをなんていうのか知ってんだろぉよぉ」
……だまれだまれだまれ。
「卑怯なんだよお前はよぉ。否定されるのも傷つけられるのも嫌だ。だから人には働きかけねぇ。受け答えしかしねぇ。相手のことなんかこれっぽっちもも考えてねぇんだよ、お前はよぉ」
……やめろやめろやめろやめろ!
「なぁ、おい、お前、このままでいる気なのかよ。そんなんじゃ生きていく意味あんのかよ?」
鼻で笑いながらそいつは言った。僕だって、なるべく考えないようにしてたのに!僕は僕は僕は……このまま……死んだほうが……
「おやめなさい」
その時、突然光が差した。遮光カーテンは日光を通すはずはない。ならばその光の元は、この部屋の中だ。
「そんなに責め立てたところで何もならない。あなたはただ傷つけたいでしょう」
凛とした声。正しく響く、どこまでも滑らかで、誰をも寄せ付けない声。
「あなたは闇雲に否定するだけだ。
あなたの言っていることには何も確証はない。ただの妄想だ」
僕は胸を上下する。その時になって初めて、息を詰めていたことに気づいた。
「去りなさい。あなたの出る幕ではない」
いつの間にか、影にいた男の気配は消えていた。
「……あんた、なに」
「あなたの側にいる者ですよ」
「……どうして」
僕はつぶやいた。いつのまに膝は崩していた。
「どうして、追い払ったの」
「それはあなた」
光の主がこちらに顔を向けた。
「年が明けたからですよ」
……鐘の音がする。そうかこれは、除夜の鐘か。
「明けましておめでとうございます」
「……ちょっと言ってくる」
財布を掴み、半纏を着たまま部屋から飛び出る。
住宅地を抜け、田んぼの中を抜け、村の入口の階段を上がり、息を切らして、社の前の行列に並ぶ。
境内で鐘が鳴らされていた。一定の間隔で鳴らされる鐘。
列が進み、本殿の前に立つ。
「あなたでしたね……」
賽銭箱に小銭を投げ、鈴を鳴らして手を合わせる。
「どうか先ほどの……影の男を戻してください」
そのうち、声がした、ように感じた。
「ようやくここまで来れたんだ。もう少し休めば、あの男の出番だ。その時にまた出てくるよ。それまでは、安らかに」
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