#合評会2026年3月
春は曙太郎。夏はスキー。秋は花見。冬はスイカ割り。
えぇ、世の中には楽しいこともあれば、苦しいこともありますが、それでも庶民に許された娯楽として四季折々の変化や美しさを楽しむということがあります。前口上に申し上げましたは、四季の死期の楽しみはまさにこういうところにあるものです。掘れた晴れたは砂金取りの話しにございますが、借金取りよりも恐ろしいのは、恋の煩い身の過ち。ここに続けますは愛しいというよりおいたわしい恋の物語にございます。
この物語の主人公であるアホボンは大罪を犯したゆえに五行山に27億年閉じ込められていた。五行山は文明から遠く離れた辟易するくらい僻地にあり、そこにはたまに放浪のバカボンドが訪れるくらいの山の中のまた奥の更にその奥にあった。その間は好きなスキーもできず、好きなウィスキーも飲めず、ただひたすら、サーフィンと日本酒三合で我慢をしていた。しかしアルコールはいけないのだった。アルコールが入るとオンコールされ、アンコールの拍手が鳴り響くと直ちに収容所のベルが鳴り、バラとともに総員直ちに第一種戦闘態勢に入り、五行山の地下から戦闘用美少女セーラーガンダムが出撃し冥王星に向かって出撃する。その雄姿をみながら、五行山信用金庫からの融資を有志で返済しようと考えるのがこの27億年の日課であった。
「この27億年いかに余が心血を流しつつ無残なる旅愁を感じさせる虜囚の身に甘んじていたことか。今日は待ちにまった、仮釈放の日だ。毎年毎年ちびちびと信用金庫より盗み出したる1円玉にて贖いし我が自由…しかし、仮釈放の条件として、なんとしてでもこの間は結婚してはならないという掟である。むぅ、どうせ相手もいないのだが、出てきたらお化けよりも怖いものであるな。よし、ここはむしろ余の足を切り落とそう。さすれば幽霊と結婚したいという人間は現れぬことよ。」
とは言ってもアホボンのこと、斧で切り落とすのが手っ取り早いのだが、剃刀しか持っていない。躊躇い傷を大量に足元に作って舌を出して諦めることにした。
「むぅ、ではどうすれば余はこの我が世の春の仮釈放を永遠に享受できるのか、教授に今日中に聞くしかないな。」
有難いというか、稲井教授はさればとて申された。
「アホボンよ、桜を見に行くのだ。パチンコ屋の前の桜はいかにもいかにも美しいものじゃ。そこでアホボンよ、したいをみつけるだろう、そこにヒントが隠されおる。この神の見捨てた世界で如何に生きるべきかという頻度の高いヒントが。」
そこでアホボンは桜を見に行くことにした。
「あぁ、なんという美しい桜並木か、どこもかしこも道をびっしりと埋め尽くすように鼻が落ちている。これはマネキンの鼻、あれはヨークシャー・テリヤキの鼻、どれもこれもみな世界にただ一つの鼻である。なんか血なまぐさいな、あぁ世界が赤いな、よく見るとどの鼻も鼻血をだしている。なんと美しくもおぞましい光景か。しかしとりあえず言われた通りにパチンコ屋に行こう。」
するとパチンコ屋の前にはもっとおぞましくも美しい光景が広がっていた。
「こ、これは、新規開店・人気絶頂を装うためのサクラの大群ではないか…なんと美しい…それらのサクラはみな一人一人ジャンパー・パジャマ・ジャージ・ネグリジェ・海水パンツと着ているものが違い、顔と姿勢や体型も違いながらもただ一点においては同じであった。みなおっさん。…なんと美しい壮絶なる光景なのか…はっ!もしや!ここには何かあるに違いない!」
そして、アホボンは意地悪なおばさんから犬を借りてきて、周囲を探らせた。
「ここには何かある。確実に何かがある!なぜならサクラの下にはしたいがあるに決まっているからだ!」
そして重機7台とダンプ77台でスロット全開にして居並ぶサクラの足元を掘り崩していったのだった。そこには…大量のズボンが埋められていた!
「これはまさに下衣の山…リーバイスのジーンズが、エドウィンのジーンズが大量に埋まっておる…!」
サクラたちが一斉に蠢動する。
「これはビンテージものじゃないかぁ!いやぁ喜びのボルテージが爆上がりだぜぇ!サルベージしなければ、サルベージだ!」
そして、水陸両用車が大量にパチンコ屋の前に配置されサルベージが始まった。
そんな中、とある女性がアホボンに近づいてきた。
「君、何をしている。ちょっと健康診断を受けなさい。国民のために献血は必要だよ。遺体から血は搾り取れないんだよ、痛いと喚くから。君は割に健康そうだ。健康診断を受けなさい。もしかしたら、ガンとか見つかるかもしれない。ガーンとショック受けるかもしれないけど。」
それは麗しい女性であった。
「こ、これは心臓バクバク、頭バカバカになってしまう。これほどまでにも美しい女性が3000世界にいたとは…しかし何とかして3001世界への解脱を図る余にとってまさにこの女こそ大敵・難敵・強敵なり。なんとしてでもこの毒牙から脱け出さなければ…とはいえ、余は面食いである。そうじゃ、要するに結婚しなければいいのじゃ。婚姻届けに印鑑を押す余の右手を切り落とそう。女、頼みがある。なんとかして余の右手を切り落とせ。」
「何、この変な人?」
と、その女は大層嫌そうな顔を体操をしながら言った。
「なんと、余が一番気にしていることをズバッとグサッというではないか…そんなことしたらSNSでバズってしまうぞ!」
変な女だとアホボンは思った。こいつ面白くないなと思いつつアホボンも言った。
「もしも面白かったら、尻から白い尾を出すべきではないのか。」
つまらない奴だと思ったその瞬間に女がカッと歯を見せた。
「見よ、我が白い歯を。芸能人は歯が命じゃ。この歯はな、健康優良児の印じゃ。どこにも歯糞が詰まっておらぬぞ。試してみるか…?」
と相変わらず、白い歯を見せつけて腹話術で話しかけてくる。
「詰まっておるな、おぬし。歯に詰め物をしているのがわかるぞ。余の目はごまかせぬ。」
するとサッと女はアホボンにゴマを振りかけた。
「な、なんと目つぶしか…卑怯な…」
手を払い目をこすりながらアホボンは年甲斐もなく泣きじゃくった。
「ふふふ、サクラの美しさは心眼でこそ、その真贋がわかるもの。お前のような節穴の目はつぶしてしまった方がよい。その方が我が美しさも、サクラの美しさも良く見えるじゃろう。」
「き、きさまぁ。何のつもりだ。心眼とか駄弁ぬかして言うが何も見えぬぞ、このままでは汝の美しい顔も見えないので、顔を拭くのにハンカチを貸しておくれ。」
とアホボンは頼んだ。
すると女はサッと顔を拭いてやる。
「私の名前は椿(ちん)じゃ。忘れるな。というか思い出せ。」
そう言って、今度はアホボンに塩入ゴマを振りかけた。
「うわぁぁ、なんという卑劣さ、残忍・無念・無残・極道・非道の人でなしだ…」
と、アホボンは泣きじゃくった。
余に五行山へまた閉じ込められよというのか…折角自由を手にしたのに…なんということだ。そして、アホボンはここまでの道のりを走馬灯のように振り返った。
与えられたこの自由をアホボンは浪費していた。しかしこの世の中浪費ほど楽しいことはない。なにせ27億年も浪費したのだ。ここで1~2年無駄遣いしたところでさしたる意味はない。そこでアホボンは資格試験の勉強を始めることにした。目指すは天気予報士だ。Nihon・H na・Kyokaiでレオタード姿でオペラを歌いながら、高気圧の西高東低を説明するのが当面の目標であった。その後は歌舞伎座で虚言回しをしながら脳を鍛えるための能を舞うために日夜昼夜逆転の生活で頑張っていた。しかし学習時間はたいして積みあがらなかった…この後に及んで目にゴマ塩を振りかけられるとは…まさにゴマ塩頭になっちまう…しかし、なんとしてでも天気予報士になり、結婚だけは避けなれば…
「もう忘れたのか。貴様、昔の彼女の顔も忘れるようでは、地球が生まれて以来の大阪の天気を全て暗記しなければならない天気予報士なんぞうかりっこないぞ!」
と、椿は激怒していった。
ああ、何たることか、キレイさっぱり忘れて、この女口説こうかなと思っていたら、前の彼女じゃないか。アホボンは血の気も冷めて日本酒を4649合あおって、酔っぱらった振りして難を逃れることにした。
「よく聞け、このアホボン。そもそも高気圧は東高西低じゃ。つまりこれは西日本には帝王がおり、東日本には高校があるということを意味している。そして私こそが、その帝王なのだ。」
と自信満々に椿は甲高い声で早口にしゃべった。
アホボンはよく聞き取れなかったのだが、責任を取らざるを得ないことを覚悟した。しかしとりあえずは、結婚だけはしたくなかったので、印鑑を蔵に隠すために家に帰ることにしたら、椿もついてこようとするので、一緒にしばらく桜を見ながらお酒を飲んでいた。二人とも互いの近況を一通りしゃべり終わるとずっと黙って手を握り合っていた。
この後、アホボンは可哀そうにも五行山に戻り、椿は王立宇宙軍を辞めてその看守を勤めることになった。看守の仕事は暇だったので椿は電気工事士の資格勉強をしてアホボンより先に合格したのだった。
その知らせを聞いたアホボンは次のように言ったという。
「余はもう終わりじゃー。」
続けて、椿は言った。
「よし、朕はここから始めよう。」
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