少年は目を大きく見開いて
突然走りだした
風より速く
どこへいくあてもなく
とにかくここよりどこかへ
飛ぶように走った
怖かった
ただ、怖かった
家族と手を繋いで南部から難民キャンプのある
カブールめざして歩いていた
昼間は戦闘機の標的になるので
夜の闇にまぐれて──歩いた
みんな裸足だった
みんなもう何日も何も食べていなかった
みんな寒さに凍えていた
みんな意識が半分遠のいていた
そのとき
どこかで爆音と閃光が走った
気づくと
手をつないでいたはずの母と妹が
消えていた
ふりかえると父と祖母の姿も
なかった
真っ暗闇に漆黒が
黒い溶岩のように流れて静かだった
怖かった
だから走り出した
声も出なかった
哀しみもなかった
ただ怖かった
怖かった
だから少年は走った
パシュトゥーンを
呟きながら
足の裏を血だらけにして走った
暗闇で眼だけを光らせている痩せた山犬のように
倒れた人の水筒を奪い
落ちている誰かのちぎれた腕の血を舐め
爆撃で焦げた野ネズミをポケットに入れて
少年はカブールに辿り着いた
雪が降っていた
多くの人を凍らせる雪だった
音のない白い爆撃だった
降り積もるさらさらの下で
人々は動かぬカタチをこしらえていた
陽気な音楽が聞こえる
楽しそうなメロディ
金平糖が弾けたような眩しい光粒の散乱
多国籍軍、新生アフガン政府合同
アフガン和平成立祝宴会
が行われていた
少年は警備の厳重な垣根の間をすり抜けて
窓ガラスに積もる雪をこすって中をみた
会場には羊の丸焼きや豪華なピラフが並んで
いた
欧米の大使、特使、軍人、アフガンの暫定政権
幹部たちがワインやシャンパンを飲みながら
踊っていた
雪を除けた小さな隙間に驚いている少年の
見開いた目が張り付いているのを知らず
NHKのカメラは窓をアップした
少年の大きな眼が日本のお茶の間の人たちに
一瞬映って
すぐにまた消えた
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