「……死ん……んに……首……しい」
たぶん舌を下ろした方がいい。相手の耳に直接届くのを恐れて鼻に逃してるタイプ。コンクリートの密室で車に轢き散らされる声。「えッ!?何ッ!?」聞き返したが秋来の唇はもう動かなかった。アスファルトがよじ登れなかった黒い大岩の土手っ腹をくり抜いた10メートルしかないトンネル。抜けると目当ての建物が見えてきた。
上部が下部の倍ほど幅がある、パースの狂ったパステルイエローの建物は、ホームページの写真よりもペンキが退色し、その下に露出した赤、秋来の足の水虫。その横の敷地のフェンスの中に十頭ほどの犬たちが、あるものは取っ組み合い、あるものは脅迫的に同じルートを回り続け、一頭はそのルート上で足を地面に投げ出して寝そべり、巡回犬に都度踏まれたり蹴られたりしても死んだように動かない。
向かいの浜から風で運ばれてくる、海岸に打ち上げられて焼け死んだ海藻の匂いと、犬たちが全身で踏み散らかした排泄物の匂いが混ざって鼻の奥の柔らかいところを押すと、脳が腰骨を吊っていた糸が切れて少し流れ出した液体が温かくて、股関節がどうでも良くなり——」
「夏生、何一人で喋ってるんだ?……ハル!引っ張るなって!」
「入ってみよ……」
「SIT YOUR ASS DOWN!! YOU CRAZY DOG!! (さっさと座りやがれ!!クソ犬!!)」
回しかけた真鍮のドアノブが軋んで止まり、ターコイズ色の緑青に覆われたその基部に目が錆びつく、と、手のひらに馴染みかけたノブがスルリと回り、下が引っかかって弾むように開いたドアの隙間から「ごめんなさいね!訓練中なの。びっくりしたでしょ」と四、五十代の優しそうな笑顔の女性。
「どうぞ、入って。あら!ウルフドッグ? Eddie! we’ve got guests! (エディ!お客さん!)」
♡
「1回3千円、週1、進捗で調整」
秋来が二つの鼻の穴から言葉を差し出すと、エディが片側4リットルはありそうな二つの外国製の肺から十倍撃ち返し、まともに食らって飛び散ったのを陽子さんが拾い集めて秋来に渡す。
「アキラ!いいか、ハルシオンはお前をボスと思ってねえ。お前はクソみてえに舐められてる。このクソ犬はお前を便所のクソだと思ってるんだぞ!ギャハハハハ!!」
窓越しに通行人がこっちを見た。
「エディ!言い方!ごめんなさいねもう。」
「クソ本当だぞ!目を見りゃクソ分かる。コイツは自分以外誰もクソ信じちゃいねえ。俺が昔、クソ山奥でクソオオカミを撃ってた時はな……!」
タンクトップから盛り上がるキズだらけの腕は、その狼にサブマシンガンで撃ち返されたのだと言う。
「ごめんね。話し出すと止まらないのよ。お茶もう一杯飲む?適当に聞き流して、ゆっくりしていってね。」
エディの足元でずっと「伏せ」をしている犬は、動くと首をへし折られる訓練を受けてるはずだ。
♡
「アキラ、お前はクソいいバイクに乗ってるな。今度俺のも見せてやる。じゃあ、次のクソ土曜日に会おう!」
エディの握手で吹っ飛びそうになってる秋来ウケるw
♡
「疲れたぁー!」
「俺も……」
「ほとんど聞き取れなかったけど”Fuckin”を500回ぐらい言ってたのはわかった。」
「陽子さん、お昼までご馳走してくれたね!」
「ムースをチョークスリーパーで殺したとか言ってたぞ……」
「聞き取れてるじゃん!目玉食べたって。ムースってこれだよね?→🫎」
「犬ぞりの元世界チャンピオンとか。本当かよ」
「そう言いながら訓練、申し込んだじゃん!」
「まあ……ダメならやめればいいし」
夕闇と波音の中、風に髪を靡かせ走る。🚲🌊
潮風に鼻をクンクンするハル。🐺
七月だ!夏が始まる!🌈🌻☀️
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