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春17|アイの楽園—俺と彼女が犬に食べられるまでの365日

アイの楽園—俺と彼女が犬に食べられるまでの365日(第17話)

全滅

何かが舌に刺さった

タグ: ##純文学 #SF #サスペンス #ホラー

小説

940文字

17.砕天ノ楽園

—— MEMORY_FREQ: 388 Hz ——

「妹が怪我してるのに何をやってたんだ、お前は。」

白——

くるぶしに開いた2センチほどの傷から見える靭帯の、場違いなほどの白。

アスファルトに叩きつけられ、喉の底が決壊したように泣き叫ぶ妹、倒れた自転車、虚しく回る車輪。

雨——

濡れた右の口角が上がる。

「看護師に褒められた。」

親父の口角も。

顔をバチバチと叩く雨——

——TUNING: >>> 440 Hz ——

体温で温んだずぶ濡れの服が、動くと肌から剥がれて風が流れ込む。

「痛ッ……!!」

左脇腹が軋む。背中に食い込む折れた枝。後頭部が焼け、脳が重い。焦点は合うのに景色がダブる。

「ハル……?」

目の前の笹を鷲掴み、渾身の力で体を起こす。

葉で手が切れ、捩れた脇腹が発火し、腕や足、背中のあちこちに電流。

斜面にしがみつきながら、上に伸びる幼木を掴む。

——ゴボッ

浅い根が抜け、全体重が足がかりの石を踏み抜く。支点を失った体が石だらけの地面に打ち付けられ、ズルズルと滑り落ちる。

取っ掛かりを探して足掻く手足よりも先に、顎先が地面に掛かった。

「ハル!」

口から土を吐きながら道に這い上がる。

「ハルッッッ——!!!」

耳が捉えるのは叩きつける雨音だけ。

足元に転がるフラッシュライト。固定用のステンレスバンドが破断している。

斜面の下、3メートルほど先の木を照らすライトの手が止まった。縄で木からぶら下がってもがく大きな黒い影。

リードを引き寄せる。ガクンと揺れ、上の枝からハルを吊っているバイクがズレる。

「ガウッッ!」

皮ごと首輪を掴んだ手に噛みかかる。構わずに引き寄せ、リードのナスカンを握る。

ハルをねじ上げ、浮いたナスカンを反対の手で弾く。親指の爪の角と金属が肉を挟む。そのまま落ち、地面に爪を立てる。

引き上げたハルをバッグのストラップで木に繋ぎ、枝に絡まったバイクを強引に引き抜く。地面に座り込むとそのまま体が横に伸びた。

殴りつける雨音、俺とハルとタイヤが砂利を踏む音——

車の音が聞こえていることに気づいた時、俺の足はアーチ橋の濡れた歩道を引きずっていた。

川面を吹き抜けた風が開いたままの口に冷たく沁みた。何かが舌に刺さった。赤黒いゼリー状の塊と一緒に、指先に吐き出す。

© 2026 全滅 ( 2026年2月1日公開

作品集『アイの楽園—俺と彼女が犬に食べられるまでの365日』第17話 (全18話)

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