11.休日ノ楽園
青黒い光沢を帯びるまで焼いたカッターの刃に、削り出した鉛筆の芯を針金で立てる。芯が刃に小さくカツッと当たり、動かすと抵抗なくスルスルと滑る。
化粧品の空ボトルにエナメル線を巻く。指に食い込む線を扱いて伸ばしながら、隙間なく指の腹で線を詰めていく。
出来上がった部品を板に固定する。延長コードに電線を巻きつけたアンテナ、壊れた防犯ブザーで作ったイヤホン。
鉛筆の芯を滑らせて音を探る。「ザザッ」というノイズで、俺はこの街を覆う見えない巨大な場に接続された。
ザッ——ガリッ——
「……こ……つづく……こと……」
イヤホンをグッと耳に押し込む。
「……『静寂の庭』……小林さんから……揺れる描写が……」
「……は午後一時五十八分、NRCラジ……867キロヘルツ……」
「二時からの番組は『音の手帖』、……皆さまの作品……」
消え入るようにか細い14時の時報と、静かなギターのアルペジオに耳をそばだてていると突然スマホの通知音が鳴り、俺は驚いてイヤホンを耳から落とした。
——「寂しくて泣いてる?明日帰るからね!」
作りかけのラジオを見つけてしまったクローゼットに目をやる。
途方に暮れて押し込んだ、ハルが瓦礫に変えてしまった噛み跡だらけの家財道具が土砂崩れを起こしている。
しばらく眺め、イヤホンを付け直す。
「……の状況です。……は、交差点付近を……上り線が、二キロ……」
音は途切れ、自分の息でかき消されるほど小さい。
窓を開け、腕を伸ばしてラジオを外に突き出すと音が少し大きくなった。空は雲一つなく澄んでいる。
横からハルが首をねじ込んで来た。穏やかに吹き込む風に鼻を鳴らし、耳を立てて窓の外の通りを見回している。
"春11|アイの楽園—俺と彼女が犬に食べられるまでの365日"へのコメント 0件