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春09|アイの楽園—俺と彼女が犬に食べられるまでの365日

アイの楽園(第9話)

全滅

「降りろ!!」

タグ: ##純文学 #SF #サスペンス #ホラー

小説

753文字

9.満腹ノ楽園

〈ヺォォォ……ヺォォォ……〉

街明かりが溶ける黒い水面に、点々と光る青い目。棲み着いた巨大両生類が時おり水を抉るたびに、ベンチに繋いだハルのリードがガツンと張る。

「そんなに美味そうか?」

丸々とした脚で水を蹴って泳ぎ去る池のチキン。特盛カツカレーの乾いた肉を噛みながら、ハルが空にした「狗の晩餐──極」の、金の箔押しがされた缶を袋に放り込む。

「おい、ハル。」

顔だけ振り返りすぐにまた池を見る。厚い革の首輪と一緒にもらった「HALCYON」の刻銘入りのステンレスのタグが、冷たく鳴った。

「帰るぞ。」

ハルの爪がアスファルトを小気味良く引っ掻くテンポに合わせ、街灯が等間隔に落とす光の輪をくぐり抜けていく。

光から出るたびに長く薄く伸び、地面から道路脇の塀を這い上がるハルと俺の影。

唐突にスポットを浴びせてくる民家のセンサーライト。ボタンが全部「売り切れ」で真っ赤な自販機。

ドアを開けると、足元のガラクタとゴミ、洗濯機に放置した洗い物の匂いが出迎える。

服を上下とも引っ張り出してカーテンレールに掛けると首吊り死体のようになってしまったが、ハンガーがもう余っていなかった。

0時半。重い腹と脚、磨いてない歯を連れてベッドに倒れ込む。

ギシッとスプリングが軋み、ハルがマットレスに飛び乗った。2、3回くるくると回り、その場にうずくまる。

「降りろ。」

マットレスには薄黒いハルの足跡。床の方を指差して声を張る。

「降りろ!!」

弾かれたように立ち上がると、ハルは耳を下げ、汚いものを踏むような足取りで床に降りた。

引きずり落として自分の巣にしてしまった、夏生と選んだオーダーカーテンの残骸にどさっと突っ伏し、「フン」と大きな鼻息。

枕に顔を埋めたまま、スマホの画面に光る夏生からのメッセージを眺めたが、指は動かなかった。

© 2026 全滅 ( 2026年2月1日公開

作品集『アイの楽園』第9話 (全17話)

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