5.自失ノ楽園
もう昼なのに、キーボードとモニターの中心がどうしても合わない。
「アキラ、大丈夫か?」
「大丈夫です!」
——今「大丈夫です」とマネージャーに答えたのは俺か?デスクに当たる肘の内側の骨が「ゴリッ」と転がる。
「昼入れ。疲れてるんだろ。」
「いえ、まあ、じゃあ頂きます。」
立ち上がった瞬間、天井と床が逆さまになった。
トイレの個室に駆け込み、便器に顔を突っ込む。冷たいはずの白い陶器が温かい。腹の底が突き上げられ、喉の奥から焼けるような匂いが湧く。
†
「お先に失礼します。」
「お疲れ。無理するなよ。」
退勤打刻を忘れたことを思い出した時、俺はすでに自宅のドアにもたれてしゃがみ込んでいた。鉄のドアの温もりが立ちあがろうとするのを邪魔する。
……夏生はまだ旅行から帰らない。ドアの隙間からはみ出ている破れたビニール傘を見て、俺はポケットからスマホを取り出そうとした。
——ガチャ!
心臓が飛び跳ねる。
——ガチャガチャ!
ドアノブも元気に跳ねている。
"春05|アイの楽園—俺と彼女が犬に食べられるまでの365日"へのコメント 0件