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ハッピーエンド穢土

合評会2025年9月応募作品

こい瀬 伊音

だれか

一人の腕だけ握りしめる手には強張ったすじが浮いている
どちらかが疲れて手を離すのを待ってしまう日さえ来る

タグ: #自由詩 #合評会2025年9月

912文字

 

一、

 

風が吹いた時に

ふわっと飛べたらいい

その日のために羽根を磨いて

むきをそろえておくように

 

光が差したときに

眠りが綻んだらいい

その日のために芽を出して

葉脈に水を通しておくように

 

ここには誰もいなくて自由

だれか、と夢をみせてくれる

だれか

だれか

いつも呼べるなまえがないことの

自由と不自由に関する重さを測る

 

分銅はピンセットで扱うのです

油脂がつかないように

天秤はあらかじめ水平でしたか

 

でしたか?

でした

そうです

そう、でした

確かめたの

 

もういいですか

わたしは

実験室の戸を後ろ手で閉めた

 

 

ニ、

 

残酷な問いを立てるのは

仮説も重要だからです

悪手から生まれ出るものも

考察の余地があります

 

見通しを立てて未来を引き寄せる

針の穴を通すトンネル

まんなかに水が湧き出ていて

光が屈折する

 

誰かいますか

あたう限りの低い声で呼ばわり

だれか、だれかとなぞる

 

半分は骨で

半分は筋血管の

人体模型がそれに応える

剥き出しの目玉と

歯だけが大きくて

わたしも頭蓋から吊るされたく思う

 

 

三、

 

誰か助けてください

その声を拾うのはいつもひとりで

誰かが誰かのだれかがかりをしている

洗った給食着にアイロンをかけ次の班へ

考えなくても続くシステムがあれば乗って流れて踊ればいいのに

先々週と先週の白衣をひとりが着続けている

 

洗濯を選択をできる未来を

包囲の外から願う

望んでなった気さえするだれかの

全う以外の道が消える

 

 

四、

 

だれか

 

針の穴を通すほどの細く鋭い思いでただ突く

一人の腕だけ握りしめる手には強張ったすじが浮いている

どちらかが疲れて手を離すのを待ってしまう日さえ来る

待ってなどない

待ってなど

そうして深泥池に足を浸せば

あなたの髪こそが濡れる

 

うらめしや

いちばんいらない

うらめしくおもうのも

おもいをよせられるのも

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

© 2025 こい瀬 伊音 ( 2025年9月13日公開

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"ハッピーエンド穢土"へのコメント 7

  • 投稿者 | 2025-09-19 12:38

    すいません、ちょっとわたしにはわからなかったです💦

    • 投稿者 | 2025-09-24 18:39

      率直に教えていただいてありがとうございます。
      詩はなにかしらの反応をいただけることがとても少ないので
      わざと合評会に出してみました。

      著者
  • 投稿者 | 2025-09-21 22:32

    ひとりぼっちでは生きられないのに、誰かといればそれも地獄でズルズル底なし沼に落ちる、特に女性はね。というようなことを、繊細な美しい言葉で綴った詩だと思いました。

    「針の穴を通すトンネル」という表現が好きです。聖書の趣きがあります。
    絶望的に狭いトンネルの向こうに、誰かがいるかもしれないけど、でもその人もまた助けてほしい人だったりするかもしれなくて、誰かへの執着が、また前にも見た絶望感を呼び寄せて。

    夫婦でも、親子でも、兄弟でも友人でも、なくてはならない人なのに、一緒にいると死にたくなる瞬間てあるよね、と我が身に引き寄せて読まされました。

    美しくて軽やかで重い詩でした。また読ませてください。

    • 投稿者 | 2025-09-25 12:38

      大猫さん素敵な感想を寄せていただいてありがとうございます。
      けっこう真正面からお題と向き合ってみました。
      「針の穴を通すトンネル」
      細い細いトンネルの向こうへの想いは
      うけとるのもうけとってもらうにも強すぎるものだな、それを誰か一人に向けるのはとてもこわいことだな
      自分がギリギリだと結局声も出せないな
      など…
      「誰かが誰かのだれかがかりをしている」
      のところも丁寧に読んでいただいてうれしかったです。

      著者
  • 投稿者 | 2025-09-22 12:30

     さらりと書かれていながらも、重層的にイメージや言葉が仕組まれている作品だと思いました。
    「一、」では「天秤はあらかじめ水平でしたか」という問いかけが特に心に残りました。
    「いつも呼べるなまえがないことの

    自由と不自由に関する重さを測る」
    を読み返し、天秤がはじめから水平ではなかったかもしれないと気づかされて、ドキッとしました。その後の、「確かめたの」は誰が言ったのかによって、ちゃんと確認したのだと言っているようにも、問いかけ(問い詰め?)にも、読めるのがうまいです。
    また「三、」の
    「その声を拾うのはいつもひとりで

    誰かが誰かのだれかがかりをしている」
    「先々週と先週の白衣をひとりが着続けている」
    などは恋愛だけでなくケアなど幅広い読み方ができるなと思いました。
    「四、」に登場する「深泥池」は京都に実在するんですね!(調べた)
    「ハッピーエンド穢土」というタイトルもユーモアとかわいらしさと残酷さがあって良いです。

  • 投稿者 | 2025-09-22 23:06

    「洗った給食着にアイロンをかけ」がとてもよかったです。

  • 投稿者 | 2025-09-25 20:40

    最後いきなりホラーっぽくなってゾッとしました。

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