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多発してる著名人性加害告発になんとなく不安になる男の話

kamenokotaro

多発してる著名人性加害告発になんとなく不安になる男の話

タグ: #リアリズム文学 #哲学 #官能 #私小説 #純文学

小説

2,356文字

自分たちの状況は果たしてどれだけ彼ら彼女らと違うのだろうか。

 

緩やかな抵抗を見せつつも、絶妙な塩梅で受け入れている女の仕草と体温を感じながらそう思う。

オフィスで仕事をしていた恰好のまま、ところどころはだけて到底公にはできない場所を開陳して。

手で制するような仕草をしつつ、局部を完全に無防備に開いて自ら突きつけてくるその挙動の妙。

本能的なものなのか、その気になればなるほど発露する様式的対応。

形ばかりの拒絶で成立する男女の綾。

 

だめ。

いや。

 

お願い。

まって。

 

発せられる言葉だけみれば、完全に拒否して抵抗しているだけのものである。

でも実際に展開している事象はまるでその逆、むしろもっとしてほしいという貪欲なエゴそのもの。

女が切なく狂おしいものを受け入れたくてどうしようもない時に引き起こす半ば無意識の反応。

はっきりと相手が自分を求めているのを確信しつつことを進めていく。

というより、ここに至ってはもはやそんなこと疑うような感覚など皆無である。

 

当事者意識ならばそんなもの。

むしろこれが普通で当たり前。

 

性的快感を共有しようとするときに人間ならば誰もがこんなものだろう、ありふれた普遍的な在り様。

最後に残った湿った布切れを引きはがして、いよいよ本格的な段階へと移行していく。

 

ただ。

ふと己の中でどこか他人事みたいにこの状況を俯瞰しているヤツが囁いてくるのである。

本当に大丈夫なのかと。

お前が想ってるほど安心安全な状態じゃないのじゃないかと。

例えどれだけ実態が違くとも、何かちょっとした些細なきっかけで致命的なものになりうるのではないかと。

液体が満たされた柔らかくしなやかなものに包まれる寂寥感を伴った心地よさを味わいながら、どこからかそんな思いが湧き出してくるのである。

 

会社組織の上司と部下という関係。

別になんら違法なことはないし、不倫などでもない。

普通に惹かれ合ってどちらともなく距離を縮めて身体の奥まで許し合っているだけ。

ただあくまでも公には職権的に上下が存在するというこの形。

そういう外的構造。

 

もし。

今こうして、普通に性的な接触をしている状況は、後から客観的な説明を求められたらどれだけうまくできうるものなんだろうか。

万が一、彼女がなんらかの、経済的あるいは精神的な理由で自分にひどく攻撃的な指向性を持ち、関係性が破綻した場合、どんな解釈をされてしまうリスクがあるのだろうか。

 

無理矢理でしたと言われても何の証拠も示せないのは明白である。

上下関係を引き合いに断れないように追い詰められたと主張されたら、それを覆すに足る有効な武器が何もないのは確実である。

聞けば、待ち合わせのメッセージ、事前事後の睦言めいたやり取りすら「精神状態が追い詰められていた」から信頼性がないとされてしまうらしい。

 

客観的物理現象としては合意でも非合意でもどちらでもありうる場合、その解釈は完全に互いの主張だけに依存するのだろうか。

だとしたら、会社組織の上下関係という構造的なものですでに解釈の可能性なんて決定づけられてはいないだろうか。

いちおう、第三者による検討がされるみたいだけど、思想的、帰属的に偏った存在じゃないという彼ら自体の信ぴょう性は一体だれが保証してくれるのか。

今の自分が部下である彼女と合意があったといって、どれだけ信じてもらえるものなのか。

 

ほぼ無理なんだろうなと、うそ寒いものを感じながらそう結論づけざるをえないみたいだった。

今この瞬間展開している、捕食される草食動物の断末魔みたいなえぐみと迫力に満ちた彼女の吠え声。

まったくこの状況関係と切り離されてこれだけ聞かされたら間違いなく非合法的で非人道的な残虐行為の現場としか感じないだろうと。

 

ここ最近、途切れることなく続く、著名人の性加害告発の話が、そのイメージが勝手に励起してしつこく頭から離れてくれなかった。

もちろん、自分自身は全く性加害などはしていないという自負と確信があるけれど。

例え報道で言われてるように彼らが性加害的なことをしていたとしたら、それとは明白に自分は違うと断言できるのは間違いない。

でもこんな時には一番考えたくない類のことなのに、まるで意地の悪い嫌がらせみたいにずんと重くのしかかって、自分の中の一部分に確実に居座り続けていた。

 

どれだけのモノが内部で展開しているのか、断続的に引き攣るような痙攣を繰り返す濡れた身体を見下ろす。

苦痛に耐えるように眉を歪めて唇を噛むその貌。

これもそういうものだと知っていなかったら、どんな危機的身体現象なのかと怯え慄くことしかできないかもしれない。

一応、それが閾値を超えた制御不可能な快感によるものだと経験則でわかっているから、茫っと眺めてられるだけで。

今、彼女がもしかしたらその生の中でも最も幸せの絶頂を味わってるんだろうなと。

 

そうしてなんとか行為自体は最後までつつがなく終わったけど。

果たしてどれだけ集中して感覚に耽溺できたかといえば微妙だった。

いやむしろはっきり、ろくなもんじゃなかったと思う。

 

ただ、ぐったりと汗みどろの身体を投げ出してだるそうに中身のない甘く優しい言葉をとぎれとぎれに発する彼女の様子に救われたような気持ちになっただけ。

適当で間延びした相槌を打ちながらチラッとその瞳の中を窺う限り、自分が危惧するようなものが欠片もないことに少しだけ慰められた気がする。

 

ふわり。

こちらを見返す眼差しに宿る、ぼんやりと淡い光。

いざというときに一体どう解釈されるのか、全くわからなかった。

 

 

 

© 2025 kamenokotaro ( 2025年4月24日公開

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