あなたが出版社を作るにあたって、いくつものパートナーを見つけなければならない。その際、まずやらなければいけないことは、事業計画書を作ることだ。事業計画書があれば、パートナー候補から門前払いを食らうことはまずない。また、事業計画書を作ることは、自分がこれからやろうとしている事業を再認識する意味でも役に立つ。もし事業計画書になにを書いたらいいかわからないという場合、そもそもやりたいことがない可能性があるので、自分を見つめ直すよい機会になるだろう。

事業計画書は沿革・事業目的・出版計画などが書いてあれば十分だろう。サンプルとして、破滅派が作ったものを添付するので、参考にしてほしい。

それでは、本稿では以下のパートナーとその見つけ方を紹介する。

  1. 印刷会社
  2. 取次
  3. 金融機関
  4. 配送業者

印刷会社

実家が印刷会社だとか、特殊な場合をのぞき、多くの場合印刷会社を探すことになる。ここで重要なのは、印刷会社をGoogle検索してはいけない、ということだ。「書籍 印刷」などと調べると、ゴリゴリに検索エンジン対策をした自費出版の会社が山ほどヒットしてしまう。「書籍 見積もり」と検索して出てくる見積もりツールがついているサイトも信用してはならない。これらの印刷代金というのは法外な値段なので、商業出版の原価として適さない。書籍の売上原価は定価の3割以下にすべきで、300ページ2,000円のハードカバーを2,000部擦るのであれば、120万円以下でなければならない。

ではどうするかというと、すでに出ている出版物の奥付に記載されている印刷会社に連絡を取るのが手っ取り早い。そこに名前がある印刷会社はすでに商業出版を行うパートナーとして誰かに選ばれているわけで、もちろんいい印刷会社もあれば悪い印刷会社もあるだろうが、少なくとも一度は選ばれているわけだ。離婚歴のある人間がモテる、という現象に通じるものがある。

印刷会社の名前がわかれば、あとはコンタクトをとってみよう。ここで断られたからといって諦めてはいけない。印刷会社の立場からすると、まだ一回も試合に出たことのないアマチュアとは組みたくないのである。100万円分の書籍が刷り上がって、「やっぱりやめます」「実はお金持ってません」と言われてはたまらないのだ。事業計画書を提出したり、一部前払いを受け入れるなどして、いろいろと交渉しよう。もし知人に出版関連の人がいれば、紹介してもらうのもアリだ。

ちなみに、破滅派は日本ハイコムに印刷をお願いしているのだが、きっかけはすでに名刺を持っていたからである。どういう経緯で貰ったのかは忘れたが、会社を創業するといろんな営業を受けるので、そのときに貰ったのだろう。『うんこドリル』などのベストセラーも印刷しているとのことだったので、安心してお任せできると判断した。他にも何社か質問したが、「返事をもらえない」「新規はお断り」という状態だったので、そんなものだと知っておいてほしい。

取次

取次については本連載で既に触れているが、日販・トーハンのような大手取次と新興出版社が契約できることはほぼないので、仲卸をする取次を含めて契約する必要がある。破滅派が一般文芸を扱う出版社として調べて候補に挙がったのは次の取次だ。

  • 八木書店
  • 鍬谷書店
  • JRC
  • 地方・小出版流通センター
  • トランスビュー

まず、八木書店鍬谷書店JRC神田村取次と言われる仲卸をする専門書出版社兼書店である。それぞれ契約条件が異なっているので、実際に話を聞いてみると良いだろう。どの取次も「継続的に本を出すこと」を取引条件にしているはずなので、既に述べた通り、事業計画書・出版計画書を出しておこう。

地方・小出版流通センターは取次だが、その名の通り地方出版物や小部数の出版物を専門に扱っていて、福岡に拠点を置く書肆侃侃房が利用しており、すでに紹介した「出版社のつくり方読本」のほか、南陀楼綾繁『ミニコミ魂』でも名前が挙げられていた。特定のジャンルに特化した専門取次もいくつかあり、児童書や理系の専門書などの出版社を作るつもりであれば、それにあった取次を見つけることが急務である。

トランスビューは書店との直取引を行う出版社である。そのルートに他の出版社も取引代行として参入することができる。トランスビューは直取引を行う出版社の中では書店のあいだで別格に有名なので、「トランスビュー扱い」として理解されている。

これらの取次のウェブサイトにいくと取引のある出版社のリストが掲載されていたりする。このリストの中に、自分が目指すべき出版社や傾向が似ている出版社があれば、マッチしているかもしれない。

注意点として、取次と実際に会って条件などをすり合わせながら契約先を決めるというのは、けっこう時間がかかる点だ。電話して面談の約束を取り付けても、2週間以上はかかるので、出版時期から逆算して余裕を見ておこう。

取次契約と同時並行で日本図書コード管理センターでISBNを取得し、JPROに登録しておこう。JPROは日本の書籍データベースで、ここに登録されると書籍として取り扱い可能になる。おすすめは版元ドットコムという中小の出版社組合に参加すること。入会すると、JPROと連携される上、FAX一斉送信などの便利ツールも利用できる。会費はとても安いし、メーリングリストで質問もできる。ちなみに、破滅派は版元ドットコム入会時に取次が決まっておらず、「取次決まってなくて大丈夫ですか?」と驚かれたのだが、無事入会できた。

金融機関

なくてもよいのだが、金融機関にお金を借りられるよう、準備しておこう。たとえ500万円程度の余裕資金があったとしてもお金を借りた方がいいと私が思うのは、次の理由だ。

  • 印刷物がお金になって帰ってくるのは通常6〜12ヶ月後である。この長い支払いスパンを長期に渡って耐えるのは難しいし、不測の事態が発生するかもしれない。
  • 「現金がない」という状態は、経営者にとって心理的なストレスである。このストレスを抱えたままだと仕事でも日常生活でもよくない影響がある。
  • 「本が売れない」というネガティブな理由だけではなく、「本が話題になって次から次へと増刷しているが、もう現金がない」というポジティブな理由で現金がなくなることもある。
  • 金融機関は返済実績によって信頼を判断するので、借金をしたことがない人の返済実績はゼロと判断される。大きな勝負に出るときに2,000万円借りたいとしたら、それまでに500万円を完済したことのある事業者の方が、これまで1円も借りたことのない事業者よりも評価が高い。
  • 現在は3%以下と利率が低く、この傾向はしばらく続く。これ以上の投資が見込めない、つまり、300万円を投下して309万円の利益を得られないのであれば、金を借りても借金ばかりが嵩んでいくが、それはもうビジネスとして崩壊しているので、借金をしても利益が増えていくのが企業としても健全な状態である。

すでに紹介したとおり、日本政策金融公庫などがハードルが低いだろう。その他、信用金庫や地銀などもすでに付き合いがあるなら話を聞いてみてもよいかもしれない。

また、金融機関や税理士など、一般的な企業の経営に財務面で関わる人たちと仕事をすると、「うちの会社はイケてるのか」「一般的に見てこの利益率は高いのか低いのか」などを相談できるので、経営の素人が一人でいろいろと考えるよりは安全である。

配送業者・倉庫業者

書籍を印刷するたびにすべてが売り切れていくという状況であればそれはハッピーだが、実際そうはならない。書籍は出版社・取次・書店のあいだを行ったり来たりするものであり、当然ながらそこに輸送費や倉庫費が発生する。出版業は倉庫業とはよく言ったものだ。

まず、配送の候補になりそうなサービスを紹介する。

  • クリックポスト A4程度で3cm厚までなら185円で送れる。このため、「3cmの壁」というものが存在する。クロネコヤマトのネコポスという同様のサービスも存在する。
  • クロネコヤマトなどの宅配便 80サイズで単行本10冊程度と考えると、800円程度で一冊あたり80円となる。3冊ぐらいを送るのが一番割高になる。
  • ピックゴー トラックとドライバーを丸ごと頼むサービス。1,000冊程度を運ぶ場合に利用できる。ただ、その規模の配送は通常印刷会社が手配するはずである。
  • 自分で運ぶ マイカーやレンタカーを利用すると、自分で運ぶことも可能だ。軽バンなら500冊程度、ハイエースやボンゴなどのバンなら2,000冊程度を積むことができる。2,000冊積むと結構タフな仕事になるので、あまりお勧めしない。

続いて、倉庫である。倉庫はレンタルスペースなども利用できるが、本は湿気と日光が大敵なので、専用の倉庫を使う方が安全だ。破滅派は倉庫を利用していないのでわからないのだが、大村紙業という会社をよく聞く。料金体系はまったくわからないのだが、出版流通に求められる以下の機能をやってもらえるそうである。

  • Amazon e託対応(Amazonからの注文を受けたら発送処理をしてくれる)
  • 出庫と返品分の入庫両方に対応している
  • 改装処理(カバーや帯を新しいものに変えてくれる)

他、出版VANなどにも対応しているそうなので、一定以上の規模になったら出版物流代行をお願いしても良いだろう。

破滅派の場合、配送と倉庫は次のようになっている。

  • 在庫は自宅と実家の2階に保管している。なので、倉庫代は無料。あと3,000冊ぐらいは入る余地がある。
  • 配送は自家用車の軽バン(平成12年登録のホンダバモス)と日本レンタカーで借りるマツダボンゴを使い分けている。1冊400gと考えると、前者は積載250kgで600冊強、後者は積載750kgで1,900冊強といった具合である。

実際のところ、新刊を刷り終わったあとの書籍の流れは次のような形になる。

  • 印刷会社から2,000冊が刷り上がると、500冊をバモスで引き取り、自宅に持ち帰る。文学フリマで売ったり、直販用に確保したり。
  • 後日、印刷会社から1,000冊を取次に直接配送で納品してもらい、500冊をバモスで引き取りに行く。

2回も移動してめんどくさそうに思えるかもしれないが、一気に2,000冊も受け取るのはけっこう大変なのである。『シン・サークルクラッシャー麻紀』が話題になったときは増刷分すべてを取次に納品するというハッピーな状況だったが、多くの場合そうはならない。

また、前述した通り、多くの大型配送業者は個人宅への輸送を受け付けないので、会社の住所がバーチャルオフィスである破滅派としてはこまめに移動するようにしている。

会社の本拠地やオフィス・住宅事情によっても状況は異なるが、関東近郊の人には参考になるだろう。

まとめ

印刷会社が決まれば本を作れるし、取次が決まれば受注の準備は万全だ。金融機関でお金を借りて安心を買う。配送・保管の準備も万端だ。それでは、次回以降で書店からの注文を受ける、という超重要局面に入っていきたい。