さて、書店に納品した書籍は返品されることがある。本稿では、その具体的な流れと、会計上で注意する点、そして、メンタルセットの構築方法を紹介しよう。

その1. 返品の具体的な流れ

取次と書店のあいだで一般的な委託配本では、「取次が見繕った書籍を書店が店頭に並べる」というワークフローになっており、売れなかった本をそのまま取次に返品する。この業務は書店員の一日のルーチンに組み込まれているらしい。

勝手に送りつける委託配本と異なり、注文配本の場合は「返品してもいいですか?」と書店が了解を得る必要がある。多くの書店員はこの仕組みを知っているが、アルバイト・パートタイムなどが多く流動性の高い職場環境である書店では、この制度を知らないこともある。だいたい、破滅派が経験したのは以下のパターン。

  1. 電話やFAXで「返品していいですか?」と聞かれる。署名と部数を「返品了解者・高橋と書いてください」と返答して終わり。
  2. 逆走されてきちゃいました」と連絡が来る。これは注文扱いであることを返品担当者が知らなかったことが理由。上記同様、返品了解者を伝えて終わり。

書店が取次に返品する際、多くの場合所定の書式があり、それは各書店・取次のあいだで決まっている。注文扱いの返品で必要なのは返品了解者の名前なので、それを伝えればよい。なお、基本的に書店との情報のやりとりでメールを送ってくる書店員は超少数派であり、大手チェーンの大型店舗と新興独立系書店に限られる。したがって、電話やFAXを用意する必要がある。FAXはPDFでメール受信できるサービス(BizFAXなど)があるので、そういうところを使うと良いだろう。

なお、破滅派では版元ドットコムなどに「返品はいつでも可能です。了解者は高橋と書いてください」と記載してあり、問い合わせに対する労力を減らそうとしているのだが、やはり問い合わせは多い。

その2. 返品のサイクル

一般的に商品というのは新発売のときに一番売れる。私は20年ほど前にコンビニバイトをしていたのだが、そのときもカップラーメンの新商品をひたすら並べ替えるのが毎週火曜の恒例行事になっていた。

小売業である書店も同様で、平積み(本を何冊も積み重ねて平らにおく)や面陳(目に見える高さのところに表紙を向けて置いておく)などの売れ行きが見込めそうな陳列方法はやはり新商品・話題作が多い。一定期間が過ぎれば一冊だけ棚に残して(棚差し)、残りは返品する。この返品サイクルはおおむね1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月と考えるとよいだろう。

大型書店などでは、新発売の時期に10冊ぐらい仕入れ、1ヶ月経ったら5冊返品というようなダイナミックな動きをする。6ヶ月というのはかなり長く置いてくれた方なので、たとえ返品率が高かったとしても感謝と共に受け入れるようにしよう。

なお、注意すべき返品として1週間などの異常に早い返品がある。これは「仕入れ担当と返品担当が違う」などのケースが考えられる。書店では定期的に棚の入れ替えを行なっており、たとえば破滅派の本が売れる・売れないとは別に、「文芸書コーナーを減らしてビジネス書コーナーを拡充します」となった場合、文芸書をたとえば100冊返品しなければならないというタスクが発生する。そのときにいちいち注文時期などを見ているかというと、見ている人もいるだろうが見ていない人もいるので、返品されてきてしまうわけである。問い合わせがあれば、「いくらなんでも一週間は早すぎるので、残してくれないか」などと頼むことも可能だ。

また、もう一つ注意すべき返品として、半年後の仲卸の大量返品である。前述の通り、取次同士で書籍を融通し合う仲卸という制度があるのだが、いくつかの取次は「なんか売れそうだから500冊仕入れておこう」と判断し、大量に仕入れることがある。その500冊がどれぐらい動いているのか、出版社は知るよしがない。「注文扱いだから25%ぐらいの返本率だろう、よって380冊ぐらい売れるだろう」と判断したところ、半年後に「300冊返品します」と言われたりする。取次というのは巨大な流通倉庫を持っていることが大半で扱い数が多い一方、破滅派の本の営業活動をせっせと行ってくれるかというと微妙なので、そもそも受注数が少ない。したがって、このような大量返品が起きうるのだろう。これは後述する経理上の問題が大きいので、破滅派では仲卸の注文については、八木書店と相談して大量注文を控えてもらうようにしている。

その3. 返品後の業務

本が返品された場合、それはもう一度売ることができる。その際に必要な作業としては改装がある。要するに、返品された本を綺麗にしてもう一回出荷可能な状態にすることだ。一般的には次の作業がある。

  • カバー、帯のつけかえ
  • 天地小口(本の紙の束を縦横から見た部分)をグラインダーで削る

世の中にはいろんな仕事があるもので、改装業者というものが存在する。また、以前紹介した大村紙業のような出版倉庫では、改装作業もサポートでつけている。破滅派の場合、ありがたいことに取次である八木書店がカバー・帯の付け替えなどはやってくれている。

なお、新興出版社が改装作業を行うといっても、そんなに大したことはできないので、次のようなことしかしていない。

  • カバー・帯だけが傷んでいるものは、つけかえ。印刷会社に2割ほど余計に刷ってもらっているので、それを使う。
  • 書店店頭や流通過程で傷んだもののうち、角が潰れたり、泥がついたりした、再販売に堪えないものははより分けておく。

いまのところこれぐらいである。なお、当然ながら返品在庫が大量に溜まってくると、保管する場所代の方が高くつくし、決算期をまたぐと資産として計上されてしまうので、過剰在庫は断裁処分という処理をする必要がある。普通に捨てると中古流通してしまう可能性があるので、専門業者に引き取ってもらい、ズタズタにするのだ。この業者は近くの業者を利用した方が安く上がるだろう。

すでに紹介したが、八木書店がやっているバーゲンブックのような在庫処分方法も存在する。

その4. 返品データを活用する

当たり前だが、返品された書籍の「返品伝票」は取次から受け取り、きちんと保管しておこう。この伝票には「何冊返品します」としか書かれていないので、「何冊仕入れて何冊返品しました」ということはわからない。したがって、注文リストと突合して書店ごとの返品率を確かめる必要がある。破滅派は自社で注文を受けているものが、詳しい書店は八木書店や取次に直接注文することもあるので、かならず注文伝票を受け取り、ただしい返品率を把握できるようにしておこう。

これは破滅派も完璧にはほど遠いが、返品率つまり実売率のデータは営業活動に大きな影響を与えるので、必ずやっておこう。

その5. 経理上の処理を知る

返品があることによって、出版社の会計業務は少し特殊なものになる。まず、取次に納品した時点でこれは売掛金として計上される。しかし、返品されると、売掛金は減る。しかも、返品のスパンは最長で半年以上になるので、当然期をまたぐこともあり得る。

この会計業務はけっこう複雑で、破滅派で利用しているマネーフォワードなどの会計ソフトではいまのところうまく対応しきれていない。売掛金の減少というのは企業にとってかなり重要視すべき出来事だが、出版業の返品はあまりにありふれた出来事なので、この返品分はいつの売掛金に対応しているのかがよくわからないのだ。出版社の会計に突如現れるシュレディンガーの猫である。これは破滅派にとって今後の課題である。うまい方法をご存知の方はご教示いただきたい。

一番簡単な方法は、売掛金を確率的に捉えることである。取次に1,000冊を納品した時点その売掛金を2,000円×1,000部×掛率65%×実売率70%で910,000円と見積もっておくことだ。この厳しめの数値設定にしておくことで、経営基盤としては盤石のものになるだろう。

なお、ここらへんの経理上の処理は『出版税務会計の要点』という本にまとめられているので、最新版を読んでおこう。

 

 

以上、出版社にとってもっとも嫌な「返品」について紹介した。もちろん、返品が嫌なのは出版社だけでなく、多くの書店も返品することを心苦しく思っている。ネガティブなマインドになるのは仕方ないが、そこから得られる情報を有効活用しよう。破滅派のキャッチコピーである「後ろ向きのまま前へ進め!」の精神を大事にしてほしい。