2017年7月27日、ニューヨーク・タイムズは同紙の書評チーフだった文芸批評家ミチコ・カクタニの退任を発表した。カクタニはピューリッツァー賞の批評部門を受賞するなど国際的に高い評価を得ている批評家だが、一方で歯に衣着せぬ辛辣な書評でも有名で、つまらなければ大御所の作品であってもボロクソに扱き下ろす名物書評家として知られている。

カクタニがワシントン・ポストやタイム誌での記者を経てニューヨーク・タイムズに入社したのは、1979年のことだった。当初はカルチャーニュースの執筆を担当していたが、1983年より同紙の書評家に名を連ねるようになり、今日まで30年以上にわたって数多くの書評を発表してきている。

その語り口は「辛口」どころのレベルではなく、ブータン料理もびっくりの「超激辛」であることでお馴染みだ。ジョン・アップダイクを「どの観点から見ても馬鹿げている」と評してみたり、トム・ウルフを「安っぽい出来損ないの恋物語」と評したりなど、ベテラン相手であってもまったく遠慮はしない、おまけに、抗議を受けても一切相手にしないという徹底ぶりだ。おかげでカクタニを毛嫌いしている作家も少なくないという。

こうしたカクタニの姿勢はアメリカ中に知れ渡っており、辛口批評家の代名詞のように扱われることも多い。人気ドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ』のなかでも、コラムニストである主人公が自著を出版した際、カクタニの書評を気にする描写があったほどだ。

今回の退任はアメリカの作家たちにとっては喜ばしいことかもしれないが、アメリカの文学史においては大きな転換点となるかもしれない。ニューヨーク・タイムズのウェブサイトでは、これまでにカクタニが紹介した作品や作家についてまとめたコンテンツも公開されているので、この機会にチェックしてみてはいかがだろうか。そして、まだ62歳と若いカクタニが今後どのような活動を行っていくのかにも注目したい。