序章 早春の濁りが喉の奥でざらついた音をたて、僕は焦って息を吐いた。 ドルル、ドルルと背後から不吉な音がする。不吉な音の正体はエンジンだ。軽トラックにのった父が僕を追いかけているのだ。妙な音を立てているの […]
写真を撮ったこともないのに、カメラのことだけは知っている――そんな曽祖父がついに(以降は週一くらいで更新します)
入営後、憂鬱な日々を送る嘉平さんを待っていたのは――
明治三十七年、日露戦争の只中も嘉平さんの頭のなかにあるのは暗函だけ。特例で大陸に渡った嘉平さんはついに夢にまで見た大本営写真班と合流し――
首尾よく出奔したはずの僕だが、あっさり父に居場所を突き止められ襲撃される。でも僕には味方がいる。父とは違うのだ――
今はろくでもない父だが、昔からそうだったわけではない。父が十五の頃の話をしよう。
病気の母親に付き添って岡山に出た父、やはりどこにでも写真はついてまわるものだ。
父の写真の才能を買って新聞社に勤めてはどうかという誘いが来るが――
蔵掃除をしていた僕と哲之は箱の奥にガラス乾板を見つける。明治は遠い記憶だ。
自殺を図った父は発見が早かったおかげで一命を取り留めたが、僕はそんな父の所業がゆるせなかった。ほとんど残っていない祖父の記憶が蘇り、尾古の秘密が明らかになる。
ご隠居のよこした手紙には古い紙が折りたたまれていた。僕の記憶にもない、尾古の記録。祖父はなぜ、田舎にもどったのか――
知りたい。もっとたくさんのことを知りたい。知らないものを見たい。
胸の奥がしびれるように痛む。僕は身を捩り、その痛みに焚き付けられるように外へ行きたいと願っている。知りたい。その欲求をあの村に降りてきた最初の尾古も持っていたのだと、僕は知っている。
そしてまた歴史はめぐるのかもしれない。僕はそれをまだ知らない。
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