新潮文芸振興会が主催する『第36回三島由紀夫賞』『第36回山本周五郎賞』の候補作が20日、それぞれ決定した。

 選考会は5月16日に開催、選考結果は同日18時より発表の予定。『三島由紀夫賞』候補作品は、年森瑛『N/A』(文藝春秋)、小池水音「息」(「新潮」2022年10月号掲載)、朝比奈秋『植物少女』(朝日新聞出版)、千葉雅也「エレクトリック」(「新潮」2023年2月号掲載)、野々井透『棕櫚を燃やす』(筑摩書房)の五作。個人的に注目したいのは、『棕櫚を燃やす』だ。同作は『第38回太宰治賞』受賞作で、30代と20代の娘2人とその父親の3人による家族の物語。父が病に侵され、余命1年を宣告され、残された日々を大事に生きる姿を描いた。第26回太宰治賞を受賞した『こちらあみ子』で三島賞を受賞した今村夏子が先例としている。

 『山本周五郎賞』候補作品は、浅倉秋成『俺ではない炎上』(双葉社刊)、荻堂顕『ループ・オブ・ザ・コード』(新潮社)、永井紗耶子『木挽町のあだ討ち』(新潮社)、岩井圭也『完全なる白銀』(小学館)、吉川トリコ『あわのまにまに』(KADOKAWA)の五作。個人的に注目したいのは、岩井圭也『完全なる白銀』だ。写真家として活動する藤谷緑里が登山家のシーラと北米最高峰デナリに、下山途中で失踪した共通の友人リタの行方を追って挑む山岳小説。岩井圭也は2018年に『永遠についての証明』で『第9回野性時代フロンティア文学賞』を受賞しデビュー。その後もコンスタントに作品を発表し続け、今回のノミネートとなった。

 ほかにも注目作が目白押しであることは間違いない。どの作品が獲っても納得のいく候補作が並んだ。