9月5日、第32回Bunkamuraドゥマゴ文学賞の選考結果が発表された。受賞作は木村紅美『あなたに安全な人』となった。

Bunkamuraドゥマゴ文学賞は、1990年からBunkamura主催により行われている文学賞で、「権威主義に陥らず、既成の概念にとらわれることなく、先進性と独創性のある、新しい文学の可能性を探」っていくことを目標としている。また、毎年一人の選考委員が選考を行うことも特徴となっている。正賞は賞状とスイス・ゼニス社製時計、副賞は100万円。2022年度の選考委員は、日本文学研究者のロバート・キャンベルが務めた。

左、ロバート・キャンベル。右、木村 紅美。(Bunkamura広報室提供)

今回、キャンベルが受賞作に選んだのは木村紅美『あなたに安全な人』であった。

人を死なせた女と男の、孤独で安全な逃亡生活――。3.11 直前の少年の死をめぐる海難事故と、沖縄新基地建設反対デモ警備中の出来事が、「感染者第一号」を誰もが恐れる地で交差する。

様々な過去の事件とコロナ禍の世相を絡めたこの作品を、キャンベルは「世界を覆う不均衡(インバランス)に声と形を与えようとしている点において、高い評価に値する作品であることは間違いない」と評価している。作者の木村 紅美 (きむら くみ)は1976年兵庫県生まれ、小学校六年生から高校卒業まで宮城県仙台市で過ごし、現在は岩手県盛岡市に在住している。明治学院大学文学部芸術学科卒。2006年に「風化する女」で文學界新人賞を受賞しデビュー、著書に『風化する女』『月食の日』『夜の隅のアトリエ』『まっぷたつの先生』『雪子さんの足音』等がある。

授賞式は10月17日17時30分より、人数を制限して行われる。授賞式の様子はBunkamura公式YouTubeチャンネルにてライブ配信も行われる。また、来年度の選考委員は歌人の俵万智が務める予定である。