佐々木晴男の一日は、数字と対峙することから始まる。 その数字は、新聞の経済欄や株式市場とは何も関係がない。その数字は、今月の交通死亡事故件数にも、ここ数年の少子化率推移にも影響されないし、遠い国の戦争で失われた命の数など […]
佐々木晴男は今、朝の六畳間で六年前の[おこづかい帳]を感慨深げに眺めている。八冊の大学ノートは同じ大きな茶封筒に入れられているため、いつでも取り出す事ができるのだった。 佐々木晴男にとって、その少し表紙が擦れて剥げている […]
牧夫が歪んだ口元に、硬い微笑みを浮かべ立っている。 「五千円」 「ああ」 佐々木晴男は差し出された紙幣を受け取った。自分が債権者であることは常に頭の片隅にあったが、いつ返済されるかわからない金の事で、無駄に悩んではいな […]
暴力的な音で目が覚めた。部屋のドアが再び叩かれているようだった。 なぜだか知らないが、また誰かが扉を開けろと言っているのだ。佐々木晴男は眼鏡をかけたまま寝入っていたので、首を横に曲げるだけで、カラーボックスの上の小さ […]
部屋のドアを開けると、冷蔵庫がなくなったせいか少し広く感じる。 冷蔵庫の置かれていた畳は、他の場所より青い。しかし受け皿から滴った水のせいで、一部が黒ずんでいた。佐々木晴男は冷蔵庫を拭いた雑巾で畳をたたくように擦る。かび […]
「言っとくけど、復讐とかじゃないから」 理香は思い出したように付け加えた。それから、佐々木晴男の目をまっすぐ見る。再び視線から逃げようとした佐々木晴男であったが、理香の瞳を見るのは初めてのような気がして、目が離せなかった […]
夕闇を過ぎ、暗くなった部屋の中で、ビデオデッキにテープを入れる。古いアニメシリーズの再放送を録画したビデオテープも、牧夫の置いていったモノだった。けれど佐々木晴男は、このテープだけは繰り返し何度も観ていた。 部屋の電気は […]
アパートの手前の公園を曲がった時には、そのまま冷蔵庫のない、六畳の、牧夫の廃棄物で雑然とする自分の部屋に帰る気がしなくなっていた。公園の明かりは点いていたが、人影はない。佐々木晴男はアスファルトから砂地の公園に入った。 […]
¥ 199
AmazonのKindleストアで購入できます。
※ Kindle以外にもスマートフォンやPCの無料アプリで読めます。
Kindle for PC
| Kindle
for iOS
| Kindle for
Android
面白かったり、気になったらSNSでシェアしてください。
シェアしていただくと作者がやる気を出します。