江戸時代初期に描かれ、その後散逸のため全体像が分からなくなっていた「盛安本源氏物語絵巻」の幻の一場面「夕顔の死」が、フランスで発見された。

フランスの絵画コレクターが購入した後に美術史家のエステル・ボエール氏の紹介により、佐野みどり(学習院大教授)が確認したことで今回の再発見につながった。フランスで発見された絵巻「夕顔の死」図の寸法は縦35センチ、横132センチで、保存状態は良好である。絵巻に使用された金も綺麗に残っており、ふんだんに使用された形跡をとどめている。今回見つかった場面では、源氏物語の重要な登場人物の夕顔が怪奇現象の予後不良で死に、それを前に嘆き悲しむ光源氏と、騒然となる家臣たちなどの様子が臨場感豊かに描かれている。源氏物語を扱った絵巻で、暗い場面を描いた物はとても珍しいと言う。今回再発見された作品は1月18日発売の美術誌「國華」1479号(朝日新聞出版)で詳しく紹介されることになっている。

平安時代中期に紫式部によって執筆され日本文化に大きな影響を与えた恋愛小説「源氏物語」は、平安時代末期には絵巻として受容され始め、以後国宝「隆能源氏」を始めとして源氏物語を題材とした様々な絵巻が作られた。江戸時代前期に制作された「盛安本源氏物語絵巻」は、有名な場面に焦点を当てた他の絵巻と違い、源氏物語全体の絵画化を行っていたという特色を持つが、いつしか各地に散逸して一部は所在不明となり、全貌が分からなくなっていた。