2017年12月3日、東京・千駄ヶ谷の書店「ブックハウスゆう」が経営悪化を理由に閉店した。同店は村上春樹ゆかりの書店として知られ、国内外から多くのハルキストが訪れる聖地になっていた。近年は、ノーベル文学賞の発表時にパブリックビューイングを開いていたことでもお馴染みだった。

「ゆう」と村上春樹とのつながりは約40年まえまで遡る。1974年から夫婦でジャズ喫茶を国分寺で経営していた春樹は、1977年に千駄ヶ谷へと店を移転させる。そのとき同じ商店街に軒を連ねていたのが「ゆう」の前身となる書店だった。近所ということで、春樹は夫婦そろって本や雑誌を買いにくることがしばしばあったという。『風の歌を聴け』で群像新人文学賞を受賞するのは1979年のことだ。

そうした縁から、「ゆう」には春樹の特設コーナーが設置されている。ただ作品を並べるだけではなく、実際に春樹が使っていたカーテンや神社に奉納した提灯など、ゆかりの品が数多く揃えられているのが他店とは一線を画す部分だった。海外のハルキストのなかには「今も村上春樹の店がある」と思い込んで千駄ヶ谷まで訪れる人も多いらしく、彼らにとっても「ゆう」の存在は拠り所となっていたようだ。

ノーベル文学賞発表の際のパブリックビューイングは、2015年からはじまったものだ。それ以前から記者や常連客が店に集うのは恒例だったというが、2014年にあまりに多くのマスコミやファンが押し寄せてきてしまったことから、すぐ近くの鳩森八幡神社の境内を借りることになった。このパブリックビューイングに関しては来年以降もつづけていく予定だそうなので、ファンにとってはせめてもの救いといえるだろうか。