埼玉県桶川市のさいたま文学館において、企画展『宮沢賢治 秩父路を行く』展が開催中だ。これは1916年に宮沢賢治が埼玉を訪れた際の足取りを追ったもので、旅行中に詠んだ短歌や現地の絵葉書など約120点の資料が紹介されている。文学的価値のみならず、秩父の郷土史的にも貴重な企画展といえるだろう。
宮沢賢治が埼玉の土をはじめて踏んだのは今からちょうど100年前、1916年9月のことだった。盛岡高等農林学校の2年生だった賢治は学校主催の「地質旅行」に参加し、地質調査をしながら秩父地方をめぐった。当時の秩父は地質学の研究地として有名であり、賢治たち一行は9日間の日程で熊谷・寄居・皆野・長瀞・小鹿野・秩父の各地域を訪れたという。
その9日間で、賢治は実に30首もの短歌を詠んでいる。当時の賢治は日記感覚で短歌を詠んでおり、その土地土地での発見や感動を臨場感たっぷりに31文字に閉じこめているのが特徴だ。これらの作品は、100年前の埼玉の様子を窺い知れる貴重な資料となっている。
今年は宮沢賢治生誕120周年にあたるため、全国各地でさまざまな賢治関連のイベントが企画・開催されているが、中には便乗としか思えないものもあった。それに対し、本展のようにあくまでも地元に根差しながら著名作家を取り上げるというスタンスは、地方文学館として理想的な姿だといえるだろう。会期は9月4日(日)までと差し迫っているので、興味のある方は急がれたい。
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