(6章の3) 特別サービスについて、根を詰めてとうとうと話されたわけではない。もはや敵地に乗り込んでのそれなので、相手は強引にでもいい加減にでも、もっと言えば強制してでもできたは…
(5章の1) わたしのすい臓はがんで、さらにはステージⅣだった。これはもう、治療のしようがないくらいに進行しているという状態だ。 ある日担当医は、点滴で元気になったわたしを…
(7章の3) 翌日、点滴注射を受けているときに沢田が来た。腕の血管に取り付けた管にセットした大型の注射器を、医師が親指でゆっくり押す。赤味がかった液体が管を伝ってわたしの中に入っ…
(8章の3) 田んぼの向こう、遠くに稜線がある。しかし黒い雲と繋がり、稜線との境目がなかなか判別できない。凝視して、多少薄く見えるところから雲だと、かろうじて分かる程度。雲は昼間…
(9章の2) バスがやってくるまでにかなり待たされた。これはわたしが、「バスがすぐに来る」と念じなかったからだ。田舎のバスは本数が少なく、長く待たされるのが当たり前なのだ。特に念…
(9章の5) 一部屋ずつ運ばず、そろって食事をさせるのは手間をかけたくないからだろう。みすぼらしい安宿のやりそうなことだ。 おかずがまた貧弱だった。肉類、刺身類はなし。揚げ…
(7章の4) わたしはまた、ふと思いだす。以前に一度、夕日を見つめていて思ったことを。 もしかしたら自分は死ぬとき、夕日を見たくなるのではないだろうか。きっと死ぬ間際になっ…
(4章の2) 調子を崩したのが金曜日の夜のことで、混みあうだろう土曜日に医者に行く気が起きず、週末安静にしていれば持ち直すだろう程度に考えて自宅で静養していた。しかしじっと寝てい…
(3章の1) ずっと夕暮れだった。 夕日が西の空に大きく浮かび、稜線に沈みかけている。ここは、いつまでたっても夕暮れだけが続く世界だった。 夕暮れは一向に、闇へと突き…