ゲーテ『若きウェルテルの悩み』のオーディオブックが配信を開始した。読み手は声優・三宅健太、大関英里。日本最大のオーディオブック配信サービス「FeBe」による、岩波文庫・新書のオーディオブック化企画第一弾として、斎藤孝『読書力』とともに配信中。同企画では今後、ドストエフスキー『罪と罰』、トルストイ『戦争と平和』などのオーディオブック化が予定されており、毎月定期的に新作が配信される。

 

ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ(1749年8月28日 – 1832年3月22日)が『若きウェルテルの悩み』を発表したのは25歳の時。もはや語るまでもなく、あなたのために書かれた作品である。しかし、200ページ足らずの「ウェルテル」がオーディオブック化すると8時間にも及ぶとは。90分の映画台本はさぞかし薄いのだろう。『罪と罰』、『戦争と平和』など、どれほどの長さになるのか想像もつかない。読み手も大変であろう。

 

オーディオブックにどれほどの需要があるのかと疑問に思うのだが、「FeBe」はサービス開始から来年で10年目を迎え、そのラインナップは18000冊を超えている。さらにAmazonも「Audible」というサービスを手掛けており、オーディオブックの需要は近年、急激に拡大しているらしい。

 

サンプルを聞いてみると、流石はプロ。とはいえ、やはり「原作の声と違う」感は否めない。ウェルテルはもっと高い声で大げさに感情表現するイメージだ。断じてアブドゥルではない。このイメージは読者本位の自分勝手なものと言ってしまえばそうなのだが、一方で読者が想像力を働かせる主体的な行動でもある。

 

映画やテレビのように一方的な受け身のメディアに慣れ親しんだ人にとって、オーディオブックは確かにお手軽なのかもしれない。がしかし、「読書の多様化」と言えば聞こえは良いものの、やはりそれは「読書」とは違うだろう。実際、読んでいないのだからそれはそうか。紙の本は焼かれ、人間には一方的な受け身のメディアのみが与えられ、主体的な行動は失われる。まるで『華氏451度』のようだ。その時、僕は『若きウェルテルの悩み』になろう。