アルフォンス・マリア・ミュシャ(1860年7月24日 – 1939年7月14日、※チェコ語読みではムハ)とは、主にフランス・パリで活躍したアール・ヌーヴォーを代表するチェコ出身の画家である。『四季』、『黄道十二宮』、『ヒヤシンス姫』などの作品でご存知の方も多いはずだ。日本でも人気の高い画家の一人であろう。

 

ミュシャ「四季」1896年作

 

そのミュシャが生涯をかけて製作した超大作「スラヴ叙事詩」全20枚の巨大絵画をチェコ国外で初めてそろえた展覧会が、東京・六本木の国立新美術館で3月8日(水)から開催されている。

 

「スラヴ叙事詩」とは、吟遊詩人に歌い継がれた数多くの伝説や神話を下敷きに、スラヴとチェコの歴史を描いたオリジナルの絵画シリーズである。チェコ国民が自国の歴史と向き合えるように、との思いから制作が始まり、大きい作品は縦6m×横8m、小さいものでも縦4m×横4.8mと絵画としては破格の大きさで、ミュシャは16年の歳月をかけてこの超大作を完成させ、1928年にプラハ市に寄贈した。挿絵やポスターなどの作品が多いミュシャにしては珍しくメッセージ性の強い作品と言える。

 

「スラヴ叙事詩」を制作するミュシャ(ズビロフ城アトリエにて、1923年)

 

そんな歴史的超大作を、直接見ることのできる機会は滅多にないだろう。実際のところ、去年の11月「スラブ叙事詩」の所有権をめぐって、ミュシャの孫がプラハ市を提訴するというニュースが流れ一時は展示会の開催が危ぶまれたが、何とか穏便に事が進んだようだ。また、その巨大さ故に3回に分けて空輸され、その重さ故にフォークリフトで運ばれ、さらには「スラヴ叙事詩」が普段展示されているプラハ市立美術館の専門チームによる展示作業が必要なため、今回のように「スラブ叙事詩」全20枚がそろう展示会は今後もうないかもしれない。

 

チェコスロバキア共和国、プラハの春、複雑な歴史を持つチェコ。現在のチェコはミュシャが思い描いていた姿になっているのだろうか。それは「スラブ叙事詩」を見なければ分からないのだろう。