河出書房新社が主催する「第61回文藝賞」受賞作に、待川匙「光のそこで白くねむる」と松田いりの「ハイパーたいくつ」の二作が選ばれた。

 文藝賞は、河出書房新社の季刊文芸誌「文藝」を母体とし、1962年から始まった文学新人賞。これまで、第1回受賞の高橋和巳をはじめ、田中康夫、山田詠美、長野まゆみ、綿矢りさ、羽田圭介、山崎ナオコーラ、磯﨑憲一郎、町屋良平、若竹千佐子、宇佐見りん、遠野遥などが受賞してデビューを果たした。

 選考委員を務める小川哲、角田光代、町田康、村田沙耶香が出席した選考会が8月21日にフォレストテラス明治神宮で行われた。

 待川は1993年徳島県生まれ、滋賀県育ちで現在、北海道在住。松田は1991年静岡県生まれ、東京都在住。

 「光のそこで白くねむる」は、「わたしたちの生まれるまえ、この土地には恐竜がいた。わたしは、その話をあなたとしたい」あなたの墓参りのため十年ぶりに故郷をおとずれた「わたし」。山あいを走る電車に乗り、坂をのぼり、過去の時間をたゆたう中で、ふと「キイちゃん」の声が語りかけてきて――。崖で隔てられた彼岸と此岸の往還により引き出される思いもよらない記憶。時の流れのゆらぎを漂う静謐な戦慄が、新感覚の詩情で語られる。

 「ハイパーたいくつ」は、「もうちょっと頑張ってくれなくちゃあ、まともな成果とは無縁の君がどうしてまだ会社にいるんだって話にもなるじゃないか。溺れてこそのペンペンさ」迷惑系給金泥棒として職場で疎まれている私は、ジャケット姿が無様なペンギンに似ていることから「ペンペン」と呼ばれている。八方塞がりで退屈な毎日が限界を迎えたとき、壊れた私の壊れた言葉が、壊れた風景を呼び起こす。リリカル系日常破壊小説!

 受賞作と受賞の言葉、選考委員による選評・選考経過は、10月7日発売の「文藝」冬季号に掲載される。

 なお、贈呈式は11月中旬に明治記念館で開催され、受賞者には正賞として記念品、副賞として50万円が贈られる。