伊・政治哲学者アントニオ・ネグリが15日に仏パリで死去した。90歳だった。伊ANSA通信が伝えた。

 スピノザやマルクスの研究で知られる。グローバル企業や国際機関が権力を持つ世界秩序を論じた、米・哲学者マイケル・ハートとの共著『〈帝国〉』などで知られる。彼らの思想は、2011年の米ウォール街占拠運動から始まった、様々な現代の社会運動に影響を与えた。

 1933年、伊北部ヴェネト州パドバ生まれ。1979年にアルド・モーロ元首相の誘拐暗殺事件に関わったとして逮捕、事件への関与は否定されたが、影響力の責任を問われて有罪となり投獄されたことも。亡命先のパリで研究・著述を続けた。

 2013年に初来日が実現した。

 ネグリ・ハートの『〈帝国〉』は、まさに現代のグローバル経済が抱える大きな問題を的確に捉えた名著だろう。ウォール街から香港における雨傘運動まで、「マルチチュード」が具現化した二〇一〇年代は本当に世界的な政治の季節だった。それだけに、その限界が明らかになった10年でもあった。これから彼の思想を引き継いで、また新たな民主主義の具現が到来することを期待しつつ冥福を祈りたい。