神保町の目抜き通りである「すずらん通り」には書店が並んでおり、その一角で現在オープンを控えている書店がある。PASSAGEパサージュという新しいスタイルの書店だ。

すずらん通り「本と街の案内所」となり。

PASSAGEをプロデュースするのは仏文学者の鹿島茂。文学研究のみならず、パリの都市論などで博覧強記として知られる鹿島は、近年書評アーカイブサイト ALL REVIEWS を立ち上げ、「本の耐久消費財化」を目指す活動に従事してきた。

出版危機の根源は「書物の消費財化」にあります。
書物がロング・セラーであることを自ら放棄し、ショート・セラーである道を選択したときから出版危機は始まっています。
本を本来の姿である「耐久消費財」に戻さなければなりません。そのために最も有効なのが、過去に書かれた書評です。

PASSAGEはその理念を具現化する書店として2022年3月1日にオープン予定だ。名前の由来はフランス語の「通路、人通りのある場所」だが、おそらく鹿島の念頭にはパリの街角のアーケードがあるだろう。ちなみに私は大学生だった頃、鹿島茂の授業を受けたことがあり、そのときに取り上げられたのがベンヤミンのパサージュ論だった。パリのアーケード街がショッピングをどのように変えたかという都市論は刺激的だったのを覚えている。拙著『メタメタな時代の曖昧な私の文学』所収の「売っていない本の中身と永遠に出てこない見積もり」でも取り上げているので、興味がある方は参照してほしい

さて、PASSAGEの書店としての特徴は以下の通り。

  1. 書評家や作家などの愛書家がそれぞれ棚主となり、ラインナップを揃えるシェア型書店。ALL REVIEWSの概念を本の街に実装したといえる。
  2. 棚主は古本以外に新刊を仕入れることもでき、売上に応じて利益を得る。新刊は再販制度に従い定価だが、それ以外の値付は棚主の自由。棚ごとに書籍がかぶることもあるし、その値段が異なることもありえる。
  3. 将来的には24時間オープン&無人化を目指している。11時から19時までは通常の有人店舗としてオープンし、無人時間は専用Webサイトを利用してロックを解除する。要会員登録。

店構えはシックだが、中に入るとパリの書店をイメージしたアンティークな雰囲気が感じられる。内装のプロデュースは鹿島夫妻が行ったそうだ。それぞれの棚には実在の通り名が冠されている。ちなみに、フランスの通りには人名がつくことが多く、「アナトール・フランス通り」「エミール・ゾラ通り」などと青い看板で記されている。

棚の上にはパリの通りの名前が。

それぞれの棚に棚主が存在し、思い思いの本を並べて販売できる。古書を並べる人も多いが、破滅派もお世話になっている神田村取次の八木書店から新刊を仕入れて販売することもできるようだ。新刊は定価販売となるが、古書は自由価格となる。たとえば、私が所有する大江健三郎『さようなら、私の本よ!』サイン入りを5,000円で売るといったことも可能だ。

現在登録されている棚主はプロデューサーの鹿島茂やALL REVIEWSに寄稿している著名な書評家(豊崎由美、内田樹、鴻巣友季子、阿部公彦ほか)以外にも、出版社、古書店、一般の読書家も登録している。入会金と月会費を支払えば誰でも棚主になれるという仕組みだ。現在はクラウドファンディングも行っている。

破滅派も登録しており、割り当てられた棚はモリエール通りである。仏文科出身の私としては、よく読んだシャルル・ボードレール通りかアルチュール・ランボー遊歩道がよかったのだが、「通りから目に付く棚」を選んだ。

すずらん通りから目に着くだろう位置。

 

いまのところは破滅派から刊行している書籍を置いているが、今後は破滅派のお勧め本を並べるのも面白いかもしれない。

実際に本を置いてみた様子。

今後は棚主を表示するポップなどが配置され、QRコードで買い物をできるようになる予定である。

ALL REVIEWS代表の由井緑郎氏によると、現在棚主からの在庫が続々到着しており、順次在庫登録および陳列をおこなっていくとのこと。在庫はオンラインショップでも購入することができるため、Amazonや楽天BOOKSのような巨大オンラインショッピングサイトとは違ったセレクションで本と出会うことができるかもしれない。

ALL REVIEWS 代表の由井緑郎氏。

 

正式オープン2022年3月1日までは会員限定。棚主ではなく、購入者として登録する分には会費がかからないようなので、メールアドレスを登録してオープンを待ってほしい。