在日韓国人3世の女流作家・崔実(1985年9月6日生)のデビュー作『ジニのパズル』が第33回織田作之助賞を受賞した。賞金は100万円。贈呈式は来年3月6日、大阪市中央区の綿業会館。

『ジニのパズル』は『群像』2016年6月号が初出。優しく感受性の強い少女が、フンコロガシに転がされているもの以下の奴によって傷つけられ、世界を救うために世界を壊してしまう話…と、これはひどいビブリオバトラーである。詳しくはご購入のこと。同作は第59回群像新人文学賞を受賞し、『コンビニ人間』に譲りはしたものの第155回芥川賞候補にもなった。そして、賞の名に座する織田作之助も『俗臭』で第10回芥川賞候補になっている。

織田作之助とは、太宰治・坂口安吾に並ぶ「戦後無頼派」の一人で、代表作は小説『夫婦善哉』と評論『可能性の文学』である、というのは嘘である。などと、オダサクについて存分に行を重ねようと思ったのだが、受賞作を読んだところ、実に相応しい作品であり興味深かったので、とりあえずオダサクについては、来年が没後70年であることだけお伝えするに留める。ちなみに亡くなったのは今回の賞と同じ33歳である。なぜならば、織田作之助賞はオダサク生誕70周年を機として創設された賞だからである。

さて、『ジニのパズル』。いったいどこまでが現実でどこからが虚構か。現実の中に虚構を織り交ぜ、真実を浮かび上がらせているようで、これはまるで「可能性の文学」の実作なのでは。そして、オダサクが描いた敗戦直後の大阪のように、JR埼京線の恐ろしいほどリアルな日常が、ふとジニの精神と共感し架空の世界を生きているような感覚に導いてくれた。これがVRか…ちょっと表現が不適切かもしれない。難しい。とにかく、戯作精神と「小説の思想」に貫かれた作品だ。僕は「戦後無頼派」という言い方よりも「新戯作派」という言い方の方が好きなのだが、しかしジニは正にこれぞ「無頼派」と言って良いのではないか。いや、無頼と呼ぶにはあまりに純粋な子どもではないか。いや、これこそが現代における「新無頼派」なのだ。その心は誰にも「頼ら無い」と。ところで、『夜光虫』と同じようなシナリオ形式の演出があったのは知ってか知らずか。改めて納得の織田作之助賞受賞作品である。