市川沙央の第169回芥川賞受賞作『ハンチバック』(文藝春秋)が10万部重版され、これまでと合わせ累計発行部数が23万部となった。

 文藝春秋は7月24日に、10万部の重版を決定したと発表。

 先日、乗代雄介『それは誠』(文藝春秋)、千葉雅也『エレクトリック』(新潮社)、児玉雨子『##NAME##』(河出書房新社)、石田夏穂『我が手の太陽』(講談社)の候補作の中から「本人が抱える問題を通じ、社会的通念や常識と信じられていることを批評的に解体しながら、自分の存在を描き出していく非常に優れた作品」として、芥川賞に選出された。その後の記者会見やインタビューなどが話題にもなっている。

 市川は1979年生まれ。早稲田大学人間科学部eスクール人間環境科学科卒業。筋疾患先天性ミオパチーによる症候性側弯症および人工呼吸器使用・電動車椅子で暮らしている。今作は『第128回文學界新人賞』受賞のデビュー作でもある。

 『ハンチバック』は、先天性の遺伝性筋疾患のために背骨が湾曲しており、電動車椅子と人工呼吸器を使い生活している井沢釈華が主人公。裕福な両親が遺したグループホームからほとんど外に出ない生活を送っている彼女が、ライター業やSNSでユーモアを交えつつ鋭い言葉を綴る。

 小説が売れないと言われて久しいが、やはり芥川賞はまだ人々の注目を集めているということであろう。なお、2020年に第164回芥川賞を受賞した宇佐見りん『推し、燃ゆ』(河出書房新社)は、50万部を突破している(2021年5月時点)。今作がどこまで発行部数を伸ばすのか、期待したい。