今月は新潮、文學界、群像、すばる、文藝の5誌が発売された。5誌の概観をここで紹介しよう。

新潮 2025年5月号

・【創作】では、村上春樹による最新小説「武蔵境のありくい」、第二回東京中野文学賞大賞を受賞した羽田圭介「その針がさすのは」、筒井康隆「温泉相撲」、千葉雅也「マイネームイズフューチャー」(第2回)。

・滝口悠生による紀行文「よそものの帰郷」――八丈島訪島記が掲載。生まれ故郷の島で自作について語り、「内地」との距離を思う。生と死を超え、家族と過ごした数日間。

・【対談】では、松家仁之×高橋源一郎「助手席で天皇小説を体験する」(往路)が掲載。

文學界 2025年5月号

・【創作】では、筒井康隆「美食の極致」、小林エリカ「Yの一生 The Life of Y」が掲載。

・【特集 作家生活40年・山田詠美の声と言葉】として、作家デビューから四十年を迎える山田詠美をフューチャー。山田詠美×田中慎弥による対談「未来は想像の中にしかない」、武田健によるルポ「下北沢がニューヨークになった最後の夜―Lady Jane ラストライブ」、「山田詠美さんと私」と題し、島田雅彦、間室道子、町屋良平、大濱普美子、村田沙耶香、長嶋有が特別エッセイを寄せる。

 さらに、川上弘美、星野智幸、綿矢りさ、奥泉光、伊藤亜和、篠原勝之、吉野弘志、高橋源一郎、辻原登がアンケート「最愛の山田詠美作品」に答える。武田健+編集部・選による名言集「言葉と文学にまつわる24の名セリフ」も。

・安藤礼二による「燃え上がる図書館――アーカイヴ論」が最終回を迎える。

・「第130回文學界新人賞」は浅田優真『親切な殺人』と、しじまむらさき『さそり座の火星』が同時受賞。選考委員の金原ひとみ、村田沙耶香、中村文則、青山七恵、阿部和重による選評も併せて。

群像 2025年5月号

・島口大樹による中篇「ソロ・エコー」を一挙。【掌篇シリーズ】では、筒井康隆の「線路の両側」、【創作】では、今村夏子「カラーハート」が掲載。

・小川洋子×東畑開人による新連載対談「秘密の読書会」、渡邊英理による新連載批評「女たちの群像」がそれぞれスタート。

・松村圭一郎による「海をこえて」が最終回を迎える。

・個人的に注目したいのは、『夏影は残る』で「第30回やまなし文学賞」の小説部門を受賞した杉森仁香による随筆「欠ける音楽」。新進気鋭の小説家がついに五大文芸誌デビュー。ベーシストとしてバンド活動も行う彼女がその経験を元にどのような随筆を書くのか。

すばる 2025年5月号

・【『ダロウェイ夫人』刊行100周年記念インタビュー(前編)】として、今年刊行から100周年を迎えるヴァージニア・ウルフの代表作の一つである『ダロウェイ夫人』を記念したインタビューを届ける。前編は斎藤真理子「ヴァージニア・ウルフと韓国文学」(聞き手・構成/小川公代)。

・【小説短期集中掲載】として、遠野遥「吸血鬼」(1)。

・【『記念日』刊行記念エッセイ】として、青山七恵「もてる力で」が掲載。

・山内マリコによる新連載「アンダーステア」、鏡リュウジ×東畑開人の新連載「占いと心理学の対話 昼間のスターゲイザー」がそれぞれスタート。

文藝 2025年夏季号

・ 【特集1 働く×ためらう】として、鈴木涼美×勅使川原真衣による対談「能力主義から降りる 傷つきを語る、もうひとりのわたし」、創作では長井短「すべてくれてやるから」、石田夏穂「ボットちゃん」、李龍徳「どうか大いなる哀れみを我らに」、大崎清夏「忘れもの」、竹中優子「骨折」を掲載。

 さらに、ゆっきゅんのエッセイ「あたしのまま働くんだ!」、草野なつかのエッセイ「反母性信仰考」、特別企画として、麻布競馬場+鈴木祐「文学好きに薦めるビジネス書×ビジネス書好きに薦める文学12冊」。

・【特集2 ドゥルーズ生誕100周年 終わりなき生成変化】として、生誕100周年を迎えた、現代思想を代表する哲学者ジル・ドゥルーズを特集。千葉雅也×福尾匠の対談「芸術以後、哲学以後 101年目の横断」、エッセイでは、佐藤究「風、息吹、地獄、窓」、町屋良平「意思批判としての小説 ドゥルーズ+ガタリ、カフカ、青木淳悟」、荘子it「アンチ・オイディプスの音楽」、髙山花子の論考「誰かの夢の書き起こし」を一挙。

・【特別企画 東京の午後を散歩する】として、柴崎友香「歩くと思い出す」、パク・ソルメ、斎藤真理子訳による「野菜の買い物」。

・ 円城塔による新連載「ホモ・ネクロ」【第1回】モナリザの夏と、岸本佐知子による新連載「尻 on fire 日記」【第1回】がそれぞれスタート。

・創作では、古谷田奈月「うた子と獅子男」、桜庭一樹「アンチの恋」、斜線堂有紀「私は呪い、君は愛。」、 山崎ナオコーラ「すべてが友情(後篇)」が掲載。

・絲山秋子による連載「細長い場所」が最終回を迎える。

以上、2025年4月発売の4誌について、概観を紹介した。読書の一助になれば幸いである。