今月は新潮、文學界、群像、すばるの4誌が発売された。4誌の概観をここで紹介しよう。

新潮 2025年7月号

・【創作】では、村田喜代子による新連載小説「その後の桜」、黒川創「近江、川の流れが始まるところ」、筒井康隆による掌編「狐狸」、市川沙央「良心的兵役拒否」(第3回)、小山田浩子「からの旅」(第3回)が掲載。

・「第38回三島由紀夫賞」受賞作は、中西智佐乃「橘の家」。受賞を記念し一部掲載のほか、選考委員の川上未映子、高橋源一郎、多和田葉子、中村文則、松家仁之による選評、中西の受賞記念エッセイ「悪いくせ お気楽なくせ」も併せて。

・中沢新一による新連載評論「神の耳――音楽という謎」がスタート。第1回は、南米アマゾンの先住民がモーツァルトの曲をどう受容したのかに迫る。音楽の奥に潜む創造神を探す旅。

文學界 2025年7月号

・【創作】では、佐藤厚志「ジャスティス・マン」、筒井康隆「KISS」、角田光代「いつかの私の子」、小林エリカ「ひとりの少女あたしはT」、絲山秋子「神と古代人―(2)酒造りのアキツ」が掲載。

・【対談】では、上野千鶴子×與那覇潤「江藤淳、加藤典洋、そしてフェミニズム」、伊藤潤二×荘子it「脱獄するための穴を掘る」、いとうせいこう×向坂くじら「リリックは『詩』なのか?」。

・【批評】では、山内昌之「「新たな歴史小説」への挑戦―宮本輝著『潮音』の二重構成について」が掲載。

群像 2025年7月号

・【批評総特集・「論」の遠近法2025】として、蓮實重彦による批評「大江健三郎「私」論 『晩年様式集』をめぐって」をはじめ、安藤礼二「大江健三郎論」、伊藤潤一郎「傾く世界のかぶき者」、小川公代「暴力とケアの倫理 岡野八代『ケアの倫理と平和の構想―戦争に抗する 増補版』を読む」、高原到「私たちが絶滅したあとに 川上弘美『大きな鳥にさらわれないよう』に寄せて」、富岡幸一郎「保守のコスモロジー」、水上文「複数で単数の世界 村田沙耶香における性と生殖」、渡邊英理「女たちの群像 病者の風景、横たわる女たち」と批評を一挙。蓮實重彦×工藤庸子による「対話」も。

・須藤輝彦の新連載「運命の文学史 終わりから始まる物語」と、戸谷洋志「丁寧な暮らしの哲学」がそれぞれスタート。

・三宅香帆「夫婦はどこへ?」、長野まゆみ「月の船、星の林」、平山周吉「天皇機関説タイフーン」、吉岡乾「ゲは言語学のゲ」がそれぞれ最終回を迎える。

・【随筆】では、河原梓水「ここでユダヤ人がころされたんだよ」、苔「友人代表スピーチ・イン・ザ・ヘル」、原島大輔「夏のおとずれ」、堀畑裕之「「聖藝」の夢」が掲載。

すばる 2025年7月号

・【特集:戦争を書く】として、小説では、小野正嗣「空き家の兵隊さん」、桜庭一樹「あの庭に桜の木はなかった」、田中慎弥「死の素人」、河﨑秋子「野良芋」、清水裕貴「光の味を知るものたち」。エッセイでは、浅田次郎「戦争の記憶」、小林エリカ「少女たちの日本・ドイツ・イタリア」、豊永浩平「やりおえていない宿題」、武谷田鶴子「被爆者 田鶴子」。さらに、奥憲介による論考「希望のための戦後小説ガイド」と小津夜景による論考「形式と不在――語られなさを読むということ」を一挙。

・【追悼:マリオ・バルガス=リョサ】として、四月に亡くなったペルーのノーベル賞作家マリオ・バルガス=リョサを追悼し、柳原孝敦が「書かれなかった小説たち――密林作家マリオ・バルガス=リョサを悼む」を寄稿。

・【『ダロウェイ夫人』刊行100周年記念インタビュー(後編)】として、小川公代が聞き手・構成を務める松田青子「ヴァージニア・ウルフと松田文学について」。

以上、2025年6月発売の4誌について、概観を紹介した。読書の一助になれば幸いである。