ゴールデンウィークで図書館が休みになって、おれはようやく仕事ができる! と思って早起きして、朝からMacの前に向かう。そろそろ重傷かもしれない。
勤めをしながら小説を書いている人は何人もいる。
例えば出勤前の早朝に。例えば通勤途中の電車で。
どうだろうか、おれは書けるだろうか。
電車の中でiPhoneを広げても気が散ってしまう。
出勤前に喫茶店に立ち寄る。昼休みには学食の空いている席に座る。わずかな時間を縫ってキーボードを叩く。本当は手書きでも書きたいけれど、そんな暇は残念ながら無い。溢れてくるものを必死でカタチに留めておかなくてはならない。
接客業は消耗する。
「野原海明」を押しとどめて、まっとうな人間のふりをして仕事をしなくてはならない。
勤務が終われば呑まずにはいられない。アルコホルの力を借りて、おれはようやく「野原海明」を取り戻す。
久しぶりにまとまった図書館の休みだ。
細切れ時間に書き溜めていた小説をひろげて繋げてみる。
必死に枚数を稼いで膨らませようとして書き溜めていたエピソード。
どれも酷くつまらない。
おれは残念ながらストーリーテーラーにはなれない。
魅力的なキャラクターも、ドキドキさせる展開も、おれには書けないかもしれない。いや、そういうものを書ける人はいくらでもいる。
おれは「野原海明」だからこそ書けるものを書かなくてはいけない。
仕事と仕事の合間のほんの数十分に、おれは「野原海明」に戻ることができるだろうか。
とても自信がない。
野原海明という人は、横柄で生意気で、どうしたって接客には向かない。細切れ時間で書くことに集中すれば、おれは野原海明を引き摺ってしまう。そのまま接客業に戻ることはできない。
こんなもの、つまらない、つまらない。
もっとぶちまけろ。もっと芯の芯まで堕ちていけ。
六畳一間のアパートで、おれは自分に言い聞かせる。
人非人であれ。毒を吐くくらいでは足りない。自家中毒を起こすくらいに、向う岸まで飛んでしまえ。