2017年8月11日、中国のミステリ作家・劉永彪が殺人容疑で逮捕された。嫌疑がかかっているのは22年前に起きた殺人事件で、報道によれば本人も犯行を認めるような発言をしているという。中国国内のニュースメディアでは、「殺人作家」「作家兼犯」といった見出しが躍っている。

劉永彪は、1985年にデビューした作家だ。専門はミステリ小説だが、ほかに歴史小説を書いたり映画脚本も手がけたりなど、多才な作家として国内では有名だった。2013年には中国作家協会の入会資格も得ている。中国メディアでの本件の扱いは非常に大きく、国内での反響の大きさが窺える。

人気ミステリ作家による殺人は、フィクションの世界ではよくある話だ。しかし現実にそれが起きたのは、全世界の文学史を見てもきわめてめずらしい事例といえるのではないだろうか。ただし劉永彪の場合は、フィクションの中の天才作家たちのように綿密な計画や緻密なトリックを用いたわけではなく、場当たり的で稚拙な犯行だった。

事件が起きたのは、1995年11月のこと。浙江省湖州市のホテルに宿泊していた劉永彪は、魔が差したのかそこで知人とともに盗みをはたらく。だが間の悪いことに、犯行の一部始終を別の宿泊客に目撃されてしまっていた。そこで劉と知人は口封じのためその客を殺し、さらにホテルの経営者だった老夫婦とその孫まで殺す。ほとんどマフィアの手口である。

しかし、そんな雑な犯行であるにもかかわらず、以後22年間犯人が判明することはなかった。公安局は600戸以上の家を訪れ2000人以上の参考人を調べたが、手がかりはほぼゼロだったという。もはや迷宮入りかと思われていたのだが、今年になって最新のDNA鑑定技術が導入されると、すぐに捜査線上に劉が浮かんだのだそうだ。

逮捕された劉は、警察に対して「今まであなたたちを待っていた」と語っているという。また、妻にも手紙を用意しており、そちらでは「20年あまりこの日が来るのを待ち続けていた」と綴っている。事実上犯行を認めている格好だが、量刑はどうなるのだろうか。なお中華人民共和国刑法では、故意に殺人を犯した場合には「10年以上の徒刑、無期徒刑または死刑」とされている。