仮題『オフライン・ナガサキ』 六
夜半過ぎまで、鈴木君と豊かな雑談をし(彼は、変わった男で、恩着せがましい京都の景観が嫌いだと、天下茶屋に住んでいた)、サパを御馳走になり、宿に戻ったぼくが試みたのは、五日間は眠り続ける事だった。所謂、軽い持続睡眠療法、である。幸い、ぼくは使いもしないのに、以前、いざという時の為に処方して貰 っていた、少量の睡眠薬と、精神安定剤を持っていた。気怠かっただけのあの日雇いアルバイトも、こちらから連絡しなければそれでもう終わりだし、鈴木君という、新しい外気にも触れた事だし、ぼくは一度、金銭の問題はさておき、自身をリセットしようと思った。無論、一番の要因は悲鳴を上げている、心身の再生にあるが。
ドヤの宿というトコロは、一見、全くプライバシーがないと思われがちだが、個室部屋にさえ入れば実はその正反対で、全てを遮断出来る環境にある。例えば、ぼくの住む『帝釈屋』は、一日千八百円の四階建てのビル、この界隈では中の上クラスであるが、室内は三畳ながらもベッド、カラーテレビ、冷蔵庫、冷暖房付き で、各階にトイレット、キッチン、電子レンジ、ポットなどは当たり前、二階には、時間限定ながらも大浴場があり、一階には、ソフト、ハードドリンク、カップ麺の自動販売機、二十四時間利用可能の、シャワールームすらある。
また、談話室なるスペースには、それまでの住人達が残していった夥しい量の雑誌、小説類がある本棚、有線までも設備してあり無料で聴ける。掃除だって、言えば毎日して呉れる。このように、世俗を割り切りさえすれば、頗る快適な上に、前もって宿賃を払っておけば、五日、十日、部屋から出なくても、誰も干渉など しない。ケイタイの電源を切った瞬間、案ずる事なく幾らでも、現世から隠遁するのは簡単であった。
ぼくは、枕元にビールの空き缶に淹れた水を用意して、睡眠薬と安定剤を二錠づつ、ポリポリポラリン、新生の為、眠る事に頑張ろう、と、念えた。
つ・づ・く
編集部より
これにて序章は終わり、次回より、怒涛の本章に突入の予定、との事で、あります。
Start Yahoo! Auction now! Check out the cool campaign
この投稿について
“
- 投稿日:
- 14:49
- by 山谷感人

0 件のコメント (コメントを投稿)