破滅派きっての破滅型人間である山谷感人によるブログ。アルコール、太宰治、私小説、サザンロックの話が盛り沢山です。

2007年6月19日

仮題『オフライン・ナガサキ』 五

 
                       *
 
 目が覚めたら、知らない部屋の、小奇麗な蒲団の中だった。小鳥の鳴き声が聞こえ、懐かしさを感じさせた。
 「おはよう。熱いコーヒーにします?」
 「いや、冷たいお茶の方がいい」
 ふいに問われ、無意識で返答して顔を上げると、ソファーに座っていた鈴木君が、こちらを眺めていた。
 「ああ、君のトコロに泊まったようだね。迷惑を掛けたね。なにせ、途中から記憶がないんだ」
 「大丈夫ですよ。新聞、読みますか?」
 「朝刊……、ね。そんなものもあったなあ。どれ、起きるとしよう」
 ふらふらと立ち、まずは一目散にトイレットを借りた。芳香剤の、いい匂いがした。
 
 長い小便を済ませて戻ると、お茶と、林檎が用意されていた。ぼくは敢えて礼も言わずに、お茶を一気に飲み干し、そうしてからやっと周囲を見渡した。
 「あれ? 吾郎君は?」
 十畳程の、ロフト付き1Kの部屋には、彼の姿はなかった。当然、一緒にいるのだと思っていた。
 「なんだ、本当に憶えてないんですね。あの店でみんなで鯨飲して、ぼくの部屋で二次会だってなった時、耕治君が吾郎君に、お前は帰れって怒鳴り、無理やり追い返したじゃないですか。いやあ、いいもの見せて貰いました」
 「……そうだったっけ? まあ、いいや。あのアルバイトも、そろそろ潮時にしようと考えていたし」
 「アハハ、確かに、もうまあいいやって、五十回ぐらいは叫んでもいましたよ」
 「魏延の謀叛みたいかい?」
 「余を殺せるものはあるか? ですね。然し、それは趣旨が違い、いい例えとは思いませんねえ」
 二人、朗らかに笑った。ぼくは、鈴木君の心遣いもあり、ドヤとは違う居心地の良さに、久し振りに触れていた。
 
 
                      つ・づ・く
 


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