仮題『オフライン・ナガサキ』 五
*
目が覚めたら、知らない部屋の、小奇麗な蒲団の中だった。小鳥の鳴き声が聞こえ、懐かしさを感じさせた。
「おはよう。熱いコーヒーにします?」
「いや、冷たいお茶の方がいい」
ふいに問われ、無意識で返答して顔を上げると、ソファーに座っていた鈴木君が、こちらを眺めていた。
「ああ、君のトコロに泊まったようだね。迷惑を掛けたね。なにせ、途中から記憶がないんだ」
「大丈夫ですよ。新聞、読みますか?」
「朝刊……、ね。そんなものもあったなあ。どれ、起きるとしよう」
ふらふらと立ち、まずは一目散にトイレットを借りた。芳香剤の、いい匂いがした。
長い小便を済ませて戻ると、お茶と、林檎が用意されていた。ぼくは敢えて礼も言わずに、お茶を一気に飲み干し、そうしてからやっと周囲を見渡した。
「あれ? 吾郎君は?」
十畳程の、ロフト付き1Kの部屋には、彼の姿はなかった。当然、一緒にいるのだと思っていた。
「なんだ、本当に憶えてないんですね。あの店でみんなで鯨飲して、ぼくの部屋で二次会だってなった時、耕治君が吾郎君に、お前は帰れって怒鳴り、無理やり追い返したじゃないですか。いやあ、いいもの見せて貰いました」
「……そうだったっけ? まあ、いいや。あのアルバイトも、そろそろ潮時にしようと考えていたし」
「アハハ、確かに、もうまあいいやって、五十回ぐらいは叫んでもいましたよ」
「魏延の謀叛みたいかい?」
「余を殺せるものはあるか? ですね。然し、それは趣旨が違い、いい例えとは思いませんねえ」
二人、朗らかに笑った。ぼくは、鈴木君の心遣いもあり、ドヤとは違う居心地の良さに、久し振りに触れていた。
つ・づ・く
Start Yahoo! Auction now! Check out the cool campaign
この投稿について
“
- 投稿日:
- 14:36
- by 山谷感人

0 件のコメント (コメントを投稿)