仮題『オフライン・ナガサキ』 一
我が『白夜』に捧げる。
結局、全ては必然的な喜劇だった。
ぼくが、或る女性と知り合い、久々に故郷へも舞い戻り、そうして未だ、なにも変化せずにのうのうと生きています。ただ、それだけの話である。
然し、あの二日間の追憶は、ぼくがこのままノタレ死のうと、万が一、僅かでも幸福を掴もうとも、一生涯、忘れられないものである。窓の外から、雨を見る度に情景を思い出す。
あの頃のぼくは、まさに、現代の落ち武者状態であった。大阪は、釜ヶ崎のドヤ街でウロウロして日々を捲り、いっそ勢いで凍死でもしてやろうか、と考えていた大寒の頃、ぼくは、その彼女と出逢う、切っ掛けを得る事になる。前もって云えば二月の第二の週末。それがぼくらの、短かった記念日である。
当時、ぼくは、大暴走の果ての侘しさ、開き直って、それをスローガンとして生きていた。そんなぼくに釜ヶ崎——、この界隈は親切であり、自由であり、顔を上げられる場所であり——、特別区のようであった。ぼくは、その魔術に、どっぷりと浸かっていた。君等には、判らぬ事実である。
その日も、凛とした逢魔が時、二畳の宿でアルコール片手に転がっていると、アルバイトの日雇い引越し作業の同僚、吾郎君からのコールが、ケイタイをけたたましく鳴らした。二回、三回、四回、五回…肝臓のどんよりとした重みを振り払い、ぼくはやがて、手を伸ばした。
「おお、オオオオ、耕治君(ぼくの名前)! こないだはオツカレ! で、これからジャン横までこれへん? いやホラ、例のアイツと飲むねん」
コイツ、山陰の田舎者の癖に、堂々と大阪弁を駆使するなあと、感心して聞いていた。例のアイツとは、吾郎君がどこぞで知り合った京大生で、以前、彼とふと三国志の話しをした時に、——耕治君より、もっと詳しいヤツがいる、今度、是非とも逢わすわ——と、勝手に告げられた相手だろうと思った。面倒だった。気が 乗らなかった。
「あ、ああ、でも、オレ手持ちがないんだ。それに、娯楽としての三国志なら大歓迎だけど、真面目くさったのは、どうも、ね」
「なんや、銭かい! そんなんは気にせんでええで! 集めに集めたサービス券で、ほぼタダで飲めるわ。それに耕治君、泥酔すればなんでもござれやん。アルコールを嗜まないヤツの、一年分の量は保証するわ」
ぼくは既に立ち上がり、靴下を探していた。
つ・づ・く
Easy + Joy + Powerful = Yahoo! Bookmarks x Toolbar
この投稿について
“
- 投稿日:
- 13:06
- by 山谷感人

0 件のコメント (コメントを投稿)