『オフライン・ナガサキ 四ノ一』
「それにしても酷い顔色ですね。ドアを開けた瞬間、晩年のポーが訪れたのかと思いましたよ」
二杯目のお茶を注いで呉れながら、鈴木君がそう言った。矢張り、傍目からも死相がくっきり、羅刹にでも魅入られた者の如く映るらしかった。
彼は、言葉を続けた。
「まあ、完全にアルコールの退薬、離脱症状でしょうね。以前、精神病に関する資料で読んだ事がありますが、極度のアルコール依存になると心身等への弊害は、トータルではヘロイン、コカイン以上、つまりはモルヒネの次に位置するほどだそうです。要するに最早、重病者ですね。独自の意志による再生は不可能、選ぶ 道は三つだけで、入院した後に生涯、一滴すらものアルコールを断つか、狂人、廃人として回避出来ない破滅を待つか、いっそ自決、全ての幕を引いて終わらせるか、このどれかしか有り得ないらしいですよ。今の耕治君の様子を見た限り、その門を潜る手前まで来ているんじゃないですか?」
夜分、ありありと怠さを漂わせて突然の来訪、しかも彼と会うのはまだ二度目でしかない為、ぼくは努めて朗らかな調子でいようと考えていたが、流石にこれは笑い飛ばせなかった。いや、内容そのものに対してではない。アルコール薬害については、彼が述べたようには具体的、専門的に充分と知識はなくとも、例えば、 後続兵として予習済みと言おうか、いずれかに曲がるべき四辻を大暴走で黙殺し、断崖に突き進んでいた刹那主義者への報いの予兆とでも言おうか、自身の如実なる問題として、或る程度は警戒、認識をしていた。失敗はしたが、軽い持続睡眠療法を試みたのが然り、現在この体調然りである。そうして何よりも、クロネコの他界。
クロネコとは出身地のナガサキ、小学校低学年から、彼が亡くなる一年ぐらい前まで、ほぼ毎日と顔を合わせていた所謂、腐れ縁だった盟友の渾名である。やがて大阪へと共に来てからも、お互い世間の営みを小馬鹿にして、競い合うように様々な狂乱を演じていたが、二十三歳の春、アイツは自らを突然クロネコと名乗り 、周囲にもそう呼ぶ事を強要、挙句の果て、「俺は年内に逝くのだ」 と公言した。
重労働アルバイトの休憩時間終了の故、九月四日予定、四ノ二へつづく
Easy + Joy + Powerful = Yahoo! Bookmarks x Toolbar
