アル記
彼は、下らない予知夢に悩まされていた。
目覚めて、惰性で開く朝刊。路面電車に揺られている夢を見れば、雑学欄に路面電車についての薀蓄。祇園界隈を闊歩している夢を見れば、大々的に冬の京都特集。全く興味もなく、正確なフルネームすら判らぬ、売れないテンプラ役者の夢を見れば、芸能欄、ピックアップ・コーナーにて早くも再会。たこ焼きを食してい る夢を見て、流石にこれはと思いきや、今度は夕刊の料理欄で、「自宅でも出来る、おいしいたこ焼きの作り方」 最近、毎日のように、ではなく、ほぼ毎日、そうした事実が続いていた。
今年、彼は友人を失った。他界。仮名として安易にA。他殺とされている。
Aは、ミステリー作家志望だった。初期の正史なぞを愛好していた。初夏、Aから来た最後となる手紙で、「開放された空間の中、刃物ひとつで、如何に完全犯罪が出来るかを描く所存也」 と書かれてあった。二週間後、Aの母親から、息子が駅の構内にて、何者かに刺され死亡しました、と、短い葉書。
無論、これは間違いなく自死だ。Aは作品ではなく自らが完成させたトリックで、当然と起こるであろう疑惑を遮り、誰にも怪しまれず、消え去った。Aは東北に住んでいたから、彼は葬式にも出れなかったが、電話で、泣きむしる母親に、「早く、犯人が捕まって欲しいですね」 と言ってやった。母親は、「この地方の警 察は、愚鈍で困ります」 と愚痴を吐いた。
彼は、二十代前半の頃に訪れた、ジョグ・ジャカルタの山奥で、神殿の片隅に寝転がっている、老婆よりこう告げられた。
「オマエハ、ヒャクマンノ、コショウヲモッテイル。ダガ、ザンネンナコトニ、ソレヲチョウリスル、フライパンガヒトツモナイ」
この台詞を思い出し、決死の筈の駄文も、ひとまず今、言いたい事が無くなりました。では、念の為、儀礼的な言葉だけ。
メリー・クリスマス。よいお年を。
迎春。
誕生日、おめでとう。
残暑お見舞い、申し上げます。
メリー・クリスマス。よいお年を。
月並み、否応なく、時代は廻る。みなさん、御健康に。
また逢いましょう。
New Design Yahoo! JAPAN 2008/01/01