8月の蒸し暑い平日、私は破滅派同人瀧上ルーシーに会うため、電車に乗った。破滅派のオフィスがある東京都千代田区岩本町から電車で揺られること二時間、千葉県の在来線にある、その地域の中心的な駅である。

実のところ、私はこの電車に乗ったことがある。高校生時分、同じく千葉県出身である私は、この地域に住む少女と交際していたからだ。電車で一時間半という、高校生にしてはかなりの遠距離恋愛を二年間続けた私にとって、インタビューに向かう長い行程はなにがしかの甘やかさを持っていた。

少女の実家へと向かう線を途中で降り、約束の改札を出た。時間まではもう少しあったので、なにか取材の証になるような風景を探した。瀧上ルーシーからの要望として、「住んでいる町がわからないようにしてほしい」というものがあった。いいだろう。そういうものだ。生きていれば、そういうこともあるだろう。

私は無意味な駐輪場の柵の写真を撮った。それから改札へ向かうと、黒いニット帽を被った瀧上が私を待っていた。簡単な挨拶を交わすと私たちはもっとも地域性の希薄なデニーズへ向かった。以下、そのインタビューを記す。

作家としての出発点

それでは、まず最初に瀧上さんの自己紹介をしていただいてよいでしょうか。

最近タバコをやめたばかりの、お酒が好きで変な顔で笑う男です。

……はい。それでは、まず物書きとしての出発点を教えてください。瀧上さんは現在、純文学を中心に書かれているようですが、ずっと純文学を書かれていたのですか?

いえ、2012年までラノベを書いていました。書き始めたのは高校生の頃で……ちょうどそのとき、テキストサイトブームだったんですよ。それで、ラノベの賞などに出していたのですが、受賞までは至らなくて……そのときに友達に勧められた村上龍にハマって。純文学面白いなって思いまして、それからハマったんです。

では、わりと最近から純文学にはまるようになったんですね。他に好きな作家はいますか。

村上春樹も好きです。あと、中上健次とか。

おっ、特定の時代の人たちですね。

綿矢りさとか、金原ひとみも好きです。ちなみに、村上春樹って、神に愛されているような感じがありますよね。神宮球場で野球を見ていたら小説を書こうと思いついて、最初苦戦したみたいですけれど、結局は売れっ子作家になって……

それはまあ、どこまでほんとかわからないですけどね。瀧上さんの狙っている文学賞などはあるんですか?

五大文芸賞〔編注:新潮新人賞、群像文学賞、文學界新人賞、すばる新人文学賞、文藝賞〕に出しています。今年の分はもう全部出し終えました。

全部ですか? 〆切までけっこうある文学賞もあるのでは……

はい。もう全部出しました。太宰賞とかも考えたんですけど、僕の中では五大文芸賞が国立大学で、太宰賞とかは私立というか……

……

瀧上ルーシーの作風について

それでは、瀧上さんが今回合評会でグランプリを取られた作品についてインタビューさせていただきます。まず、全体的な印象としては、フリーターや高校生の男女がけだるいセックスをしているという作品が多いですね。ここにはなにかこだわりが?

破滅派合評会グランプリの景品、名前入りボールペンを握りながら

twitterでも言ったんですけど、人生の虚しさというか、そういったものを表現したいなという思いがあります。

なるほど。では、まず第1作『悦び』についてお話を伺いましょう。こちらはわりと象徴的な作品だと思うのですが。高校生のカップルが倒錯的な性的関係にあるという。高校時代というのは繰り返し出てくるモチーフですが、なにかこだわりがあるのでしょうか。

それはラノベがそうだからです。あと、僕が大学にいってないですし、ほとんどニートみたいな時期が長かったので、よく知らないというか。あと、山田詠美とか綿矢りさの高校生ものが好きなので。

でも、調べて書くという手段もあるわけじゃないですか。世の中にはお仕事小説を書き続けている西加奈子みたいな人もいるわけですし。それはわりと新人賞作家に言われることなんですけど、自分の世界しか書かない人が多いので、結局フリーターとか高校生とか大学生が主人公の作品が多くなってしまうんですよね。なので、無理してでも差別化は計った方がいいと思いますよ。もしくは、瀧上さんが好きだという西村賢太のように「社会の底辺、風俗通いで女を殴るクズ」という圧倒的な個性があるとか。

うーん……

では、次にいきましょう。『青春』ですね。これはテーマの「スポーツエリートがグレたあと恩師と再会し、『戻ってこい』と言われた」に忠実な作品ですが、どのようなことを意識されましたか?

これは王道の少女漫画を目指しました。

これは陸上の話ですよね。瀧上さんは陸上部だったんですか?

いえ、違います。

じゃあ、経験していないことでも書いているじゃないですか。

そういえば、そうですね。

続いて、『妖精女と人間男子』です。こちらはテーマが難しくて、「妖精が除染作業員に扮して人間世界で生活をしている」でした。

はい。これは難しかったですね。やりたかったこととしては、村上龍のように情景が目に浮かぶような詳細な説明的描写を入れることでしたが、藤城さんには責められてしまいました……

これも妖精が出てきますが、セックスは欠かしていないですね(笑)

はい。昔、ラノベを書いていた時のアイデアを流用して、肉体的な接触のない精神交流みたいなものをセックスとして描きました。

瀧上さんはラノベでセックス描写を書いていたんですか?

ラノベはセックスしちゃダメなんですよ。もうお前らどう考えても好きなんだろという状態でも、セックスはダメなんです。僕も村上龍に出会うまではセックスを書こうと思っていなかったです。たまにある特定の作家がエロいことを書いているという評判になって、勘違いしてその真似をする人は結構いるみたいですね。

なるほど。そういう縛りがラノベにはあるんですね。ところで瀧上さんはポルノ小説とかどうなんですか。セックス描写が好きなら、そういうのもいけると思うんですが……

一度書いてみようと思って参考に読んでみたのですが、セリフとかが自分には向いてないなと思いやめちゃいました。

でも、文章とかはちゃんと文学っぽくてエロいって作品、需要あると思うんですよね。女の人とか好きじゃないですか。

ああ、ハーレクインとかですか?

そうそう。純文学にこだわるのもいいですが、マーケットインというか、需要がすでに存在するものを書いた方がいいですよ

チョコレートのパフェを夕飯前に頼む瀧上ルーシー

人生設計について

瀧上さんはプロになることが目標とおっしゃっていましたが、具体的に目標はあるんですか?

それは新人賞をとってプロデビューしてというのが一番の目標です。

なるほど。タイムリミットとかは決めていますか? あと何年でやめるとか。

とくに決めていないです。以前読んだ本で、書き始めてからデビューまで30年かかったという人がいたので、それまでにできればいいのかなと。自分は17歳から書き始めたので、47歳までに新人賞を取れれば。

なるほど。すごい決意ですね。

あと、これは自分でも誇れるんですけど、自分は書きたいという気持ちがすごい強いです。もうすでに今年の文学賞に出す原稿はすべて書いてしまったので、もっと純文学の賞があれば出したいぐらいです。

なるほど。増えるといいですね。それでは最後に、破滅派合評会の手応えはどうでしたか?

そうですね。破滅派の合評会は作品を読んでもらえるのがいいです。希望としては、そうですね、もっと簡単なお題がいいですね(笑)

破滅派は昔から縛りがきついですからね。今年度の合評会も参加されていますし、ぜひ活躍をご期待しています。ありがとうございました。

ありがとうございました。

インタビューを終えると、私は瀧上さんからデニーズの10%割引券をもらった。

デニーズの10%オフ券。事前に用意してきたのだという。

いたって普通の語り口の中に、五つの文学賞の原稿を7月にはすべて書き終えてしまっているという狂気めいた情熱を孕む瀧上ルーシーの活躍に今後も期待されたい。瀧上氏のおすすめの小説『桜』は電子書籍としてご覧いただける。