弘前大学と東北電力は2017年7月28日、方言の自動翻訳の実現に向けて共同研究を開始すると発表した。今回のプロジェクトでは、津軽弁の会話データを音声認識と言語処理技術によって標準語に要約することを目指す。現時点では来年1月末までの時限プロジェクトとなっているが、実用化の見通しが立てば研究を継続し企業の参画も募る予定だ。

今回の共同研究を持ちかけたのは弘前大学の側だった。弘前大学では、附属病院におけるスタッフと患者とのコミュニケーションが長年の懸案事項だったという。青森県弘前市は津軽弁が使用されるエリアだが、病院スタッフは必ずしも青森県出身者ばかりではなく、言葉の通じないケースが多々あったためだ。そこで現在は、わざわざ会話を録音してから津軽弁のわかるスタッフに文章化してもらうというプロセスを踏んでいる。

しかし病院という施設の性質を考えれば、これは望ましい状態とは到底いえない。急を要する用件であってもタイムラグが生じてしまうし、要約するスタッフの負担も甚大だ。この一手間のせいで救えなくなる命だってあるかもしれない。そこで、どうにかこのプロセスを自動化できないかと考えたわけだ。

東北電力に白羽の矢が立ったのは、コールセンターに寄せられた音声データを提供してもらうためだった。津軽地方のみならず東北じゅうのさまざまな方言で数多くの問い合わせがある東北電力は、今回のプロジェクトに用いる音声サンプルとしてはうってつけといえるだろう。

ちなみに筆者の母は青森生まれだが、南部地方出身のため津軽弁は半分ほどしか理解できないそうだ。同じ県内であってさえそうなのだから、県外出身者には当然わかるはずがない。この共同研究が成功を収めれば、多くの人々にとって負担削減となることは疑いようもない。

一方で、これによって伝統的な方言文化にノイズが入るかもしれないという懸念もある。もしあらゆる方言が自動翻訳される未来が訪れるとしたら、そのときの地方文学がどのような形になっているかは興味深いところだ。