福井県ふるさと文学館では、2017年7月15日(土)より夏季企画展『医と文学 ~杉田玄白からかこさとし、山崎光夫まで~』を開催中だ。本展は、福井ゆかりの偉人である杉田玄白が没後200年を迎えたことを記念した企画展で、文学者としての玄白をピックアップしている。入館は無料で、会期は9月18日(月・祝)まで。

『解体新書』の翻訳や日本初の人体解剖で知られる蘭学医・杉田玄白は、現在の福井県南部にあたる小浜藩の藩医だった。杉田家は代々医師の家系で、玄白の父・玄甫も小浜藩医を務めているなど福井とのつながりは深い。歴史の教科書にも必ず登場する(そして大いに落書きされる)偉人中の偉人だけに、アニバーサリーイヤーに県が関連イベントを企画するのはごく自然の流れといえるだろう。

それでも、ここで単なる回顧展にしないあたりはさすが文学館だ。玄白というと『解体新書』の知名度が群を抜いているが、実はほかに『蘭学事始』や『形影夜話』など、医学書とは一線を画した随筆的文章も数多く残されている。いずれも専門知識がなくても楽しめる読み物となっており、医療エッセイの走りといってもよいかもしれない。本展の主役は玄白の医学的功績ではなく、こうした文章のほうなのだ。

ほか、同じく福井出身である絵本作家かこさとしの『からだの本』シリーズや、直木賞候補に3回ノミネートされた山崎光夫による医療小説群にもスポットが当てられ、それぞれ複製原画や自筆原稿などが展示されている。『医と文学』という今回のテーマでなければ、この三者が同じ括りで紹介される機会はまずなかったことだろう。昨今はなにかと文系/理系の対比が注目されがちだが、学問の本質をあらためて問い直す絶好の機会となるかもしれない。

なお余談だが、玄白が生まれたのは江戸の牛込にあった小浜藩下屋敷であり、のちに藩医となってからも勤務地は上屋敷と中屋敷、町医者として開業したのも日本橋浜町付近だった。藩医とはいえ小浜藩の領地に定住していたのは少年時代の5年間程度しかなく、80年以上におよぶ長い生涯の大半を江戸で過ごしていたことになる。現在の中央区立日本橋図書館などはまさに玄白の診療所があったすぐ近くなので、こちらでも玄白関連の企画を催してよさそうなものだが、残念ながらその予定はないようだ。