2017年6月20日(火)、手塚治虫のエッセイ集がリットーミュージックより刊行された。2冊同時発売で、タイトルはそれぞれ『手塚治虫エッセイ集成 私的作家考』『手塚治虫エッセイ集成 映画・アニメ観てある記』。前者には自作解題やマンガ表現論、同時代のマンガ家についての考察が集められ、後者には映画評と海外アニメ評がまとめられている。

マンガの神様は、実はエッセイの名手でもあった。幼少期から世界文学全集を読みあさっていたという手塚の文章は端正で読み心地がよく、鋭い観察眼から展開される論考は切れ味抜群で、おまけにユーモアにもあふれているのだから本業エッセイストも顔負けだ。新聞や雑誌に寄稿する機会は非常に多く、これまでに刊行されたマンガ以外の著書は数十冊にものぼる。

にもかかわらず、手塚のエッセイを読んだことがあるという人は意外と少ないのではないだろうか。手塚マンガの多くが現在でも手軽に読めるのとは対照的に、エッセイは大半が入手困難な状況となっていたためだ。

そんななか、2016年から唐突に手塚の文章にスポットライトを当てはじめたのがリットーミュージックだった。同年7月の 『ぼくはマンガ家(新装版)』『手塚治虫小説集成』を皮切りに、『手塚治虫映画エッセイ集成』『手塚治虫シナリオ集成 1970-1980』『手塚治虫シナリオ集成 1981-1989』と、マンガの神様のマンガ以外の遺産を惜しみなく続々と刊行してくれている。

このたび刊行された『私的作家考』と『映画・アニメ観てある記』は、そうした手塚の文章のなかでもとりわけ文化的・歴史的重要性の高い資料かもしれない。映画からの影響でマンガに革命をもたらした手塚とあって、そのマンガ論や映画評には現代日本マンガ・アニメの基礎のすべてが詰まっているといっても過言ではないからだ。物語づくりにかかわるすべての人間にとって、一読すべき2冊といえるだろう。