発禁本の蒐集、研究家として知られる城市郎(じょう・いちろう、1922年~2016年 )が、明治大学に寄贈した約9200点の蔵書、いわゆる「城市郎コレクション」を目録化した『明治大学図書館所蔵 城市郎文庫目録』が刊行された。

 

コレクションの中には、伝説の偽書『煩悶記』、幸徳秋水『兆民先生』、『平民主義』、坂口安吾『吹雪物語』、江戸川乱歩『蜘蛛男』などが含まれる。

 

『煩悶記』は、華厳の滝に投身自殺した旧制一高生の藤村操の名を騙り、実は生き延びて無政府主義的内容を書いたとされるもの。「ウェルテル効果」により華厳の滝での後追い自殺が相次いだため、治安を乱すとして発禁処分を受けた。現物はほとんど存在せず、発禁本の中でも伝説の一冊となっている。

 

幸徳秋水が発禁になった理由は言わずもがなだろう。Juan.Bが好きそうなアレである。

 

坂口安吾『吹雪物語』、江戸川乱歩『蜘蛛男』は、風俗を乱すとの理由で発禁。今となっては『吹雪物語』は青空文庫で読むことができ、『蜘蛛男』も文庫で手に入るので、あなた自身の目でその内容を確認して頂くのが良いだろう。

 

目録ではその他の作品についても、検閲側である旧内務省の資料などと照合し、どんな理由で発禁になったかなどを記載しているとのことで、とても興味深い内容と言える。

 

なお、以前にお伝えしている通り、千代田区立千代田図書館で、戦前に出版物の検閲を行った人々に関する資料展が4月22日まで行われているので、興味のある方は作品側と検閲側の双方向で理解を深めると良いだろう。

 

コレクションの中には、織田作之助の満里閣版『青春の逆説』もあるのだろうか。当時の検閲の基準は考える以上に厳しいものであったようである。現在では酒鬼薔薇聖斗ですら本を出版できるのだから、発禁など考えるべくもない。それは自主規制という名の検閲が精力的に働いているとも言えるが、それと同時に個人のプライベートを暴露するような暴走した週刊誌でも回収されないのだから、良く分からない。表現の自由と検閲・発禁の線引きは永遠に曖昧なまま死語になる運命を辿るのだろう。