本格文學朗読劇「極上文學」とは、日本文学の名作を若手俳優たちが朗読演劇という、ビジュアルと音楽と動きで見せる新たなスタイルの表現方法で演じる舞台である。2011年に、坂口安吾『桜の森の満開の下』を第1弾として始まり、過去には宮沢賢治『銀河鉄道の夜』、夢野久作『ドグラ・マグラ』、谷崎潤一郎『春琴抄』などを公演している。第11弾となる今作、江戸川乱歩『人間椅子/魔術師』は東京と大阪での公演となる。

朗読というのはとても難しい。誰もが体験し最も身近なものは国語の授業だろう。僕は今でも覚えている。高校の現代文の先生は朗読がとても上手かった。その先生曰く、文法や読解は誰でも同じように教えることができるので、国語教師としての差が最も出るのは朗読であるとのこと。事の真偽はさておき、それはそれは女子からはキモいと褒められるくらい感情たっぷりの読みっぷりだった。印象に残る朗読と言えばその先生ぐらいなので、やはり難しいものなのだ。

難しいものでありながら、その重要性はとても大きい。それは「絵本の読み聞かせ」と言葉を変え、子ども達にとっては初めての読書体験となり、文字と言葉を覚え、想像力を育む。さらには『嵐が丘』におけるヘアトンとキャシーのように、無知と退廃の雲を吹き飛ばし、精神の力と気品さえ備え、ヒースクリフにお粗末な結末をもたらす事となるのだ。あなたの語彙力と想像力もそのようにして培われたはず。まさか『人間椅子』を読み聞かされた訳ではないだろうが。

自らを<読み師>と謳うプロの朗読演劇を、子どもに恨まれたくない親御さんはぜひ参考に…はならないかもしれないが、朗読の重要性が認められ、裾野が広がり、イベントが増えていくのは良い傾向である。古くは「語りもの」と言って、琵琶法師まで遡る伝統芸能でもあるのだ。さらにこういったイベントによって日本文学の名作に触れる機会が増えるのも嬉しい。やがて悪魔ヒースクリフは滅び、荒野に平穏が訪れるだろう。今後の広がりに期待。