Atlantic誌の記事 “Stealing Books in the Age of Self-Publishing” によると、Amazonが運営する電子書籍ストアKindle Storeにおいて、盗作が横行しているという。Rachel Ann NunesやIngrid Blackといった作家達は、かつて出版社から紙の書籍として発行したものの絶版になった作品を盗作された。

Kindleには適切な手順に従えば電子書籍を公開できる仕組みがあり、そこには当然盗作検知システムがあるのだが、まだそこまで洗練されたアルゴリズムではないため、一部を改変するだけで別の作品として認識される。盗作者たちはそこに目をつけ、一部をわからないように改変するというわけだ。具体的に紹介すると、次のようになる。「たまたま似てしまった」とか「インスパイアされた」と言い逃れできる範囲ではない。

The dark brown curls were everywhere. They were a curse, and had been for twenty-eight of Cassi’s twenty-nine years.

オリジナル作品 “A Bid for Love”

Dark brunette curls were everywhere. They were a curse, and had been for the thirty-one years of my life.

盗作とされる”The Auction Deal”

このような盗作はロマンスやミステリーなどの特定のジャンルに偏っていることが多い。盗作者はオリジナル作品に濡れ場を追加してより売れるカテゴリーで出版することもある。

盗作者の中にはKindleのベストセラーリストの上位に入る者も多いのだが、Kindleストアでのランキングシステムが盗作を助長する仕組みになっているとの見方もある。Kindleでは頻繁にランキング入りし、レビューの付く作者が厚遇される傾向にあり、そうすると盗作をしてでも沢山の本を出す方がお得というわけだ。Atlantic誌によって常習盗作者と名指しされたLaura Harnerは、セルフパブリッシング界で信じられないほど多作な作家として名が通っていた。

こうした状況について、法的整備が追いついていないのでは、という指摘もある。通常、出版社は盗作した作品を出版したら自主回収などで損害を負うが、Amazonは単に指摘があり次第ストアから取り下げればよいだけだ。また、盗作者達もアカウントを停止されたところで、別の名義で再びアカウントを取り直せば再度盗作を世に問うことができる。

盗作が発覚するのはほとんどの場合、読者からの通報であるようだ。Goodreadsのような読書コミュニティ(日本でいう読書メーターやブクログ)では、盗作をリスト化していく試みも行っているようだが、善意のボランティアによってはじめて盗作が発覚することが多い。また、盗作が発覚するためにはある程度売れてひと目に付く必要があり、判明しているのは氷山の一角ということだろう。記事内での指摘はなかったが、こうした「ハック」は機械的に行うことも可能だ。盗作を大量に生成して自動でKindleに登録するということもできなくはない。

盗作被害者の中には、幸運にもロイヤリティの返還を勝ち得た者もいるようだが、盗作証明の労力はけっして小さくない。中には泣き寝入りしている作家も多いことだろう。筆者の個人的な感想では、真面目に書いている人が損をし、「ハック」しようとする人が得をする仕組みはおかしいと思うのだが、読者の皆さんはいかがだろうか。盗作者および盗作を看過したストアに対して厳罰が処されでもしないかぎり、Amazonにも盗作者にも大したリスクはないので、状況は変わらなそうだが。