そこは古代ペルシャ。常に光の神と闇の神が戦う場――
人々は病におののき、飢えに苦しみ、神への怒りとあきらめと反逆と背徳にふけって
いた。暗黒神アーリマンが着々と闇に世界を変える、そんな場所であった。そこには
光の神アフラとその一族の救いはまだ来なかった。
やがて絶望から暗黒色に大地が染まって行く。
その時代に一人の子がうまれた。
―その子は奴隷の生まれの子であった。
もちろん移動の自由もなく、賦役義務がある最下層階級の事だ。
賦役という形で労働しただけではなかった。男も女も対価に満たないものは……
身体を売ったのだ。
俺の名は覚えてない。親に毎日のように殴られ、親に陵辱されたあとに8歳で間引
きされ売られていった。母は黒死病で死んだ。
街には神への赦しを請うために自らむちを打つもの、暴力、陵辱、売春が当たり前
の光景であった。そこの街の奴隷として連れてこられたのだ。
そこでは働くだけでなく、鎖につながれたまま体の世話をさせられていたのだった
。
やがて俺の精神は壊れていく……
最近の俺は奇声を昼間から上げ、髪をむしり取り、奇行に苦しんでいた。夜の勤め
以外、こうして牢の中にいる。
そこに救いの手を差し伸べたものがいた。牢の中から突然闇の渦が巻き上がり老婆 が闇の渦から現れる。 「お前はこのままじゃと精神は死ぬじゃろ」 「お前はだれだ!」 「何、わたしは人の心を読むことが出来るのじゃよ。この背徳の塔 […]
少年が気がついたときには魔の者達が集まる集会の輪の中にいた。 その中には獣人もいれば三つ首の獣、鳥の翼を持つものなどさまざまな魔がいた。 その輪の中心には直立したドラゴンともグリフォンともとれる悪魔の姿があった 。2本の […]
まず、街に着くまで挨拶代わりとして家家に炎を吐いた。みるみるうちに炎の渦と なっていく。竜の姿になってからというもの、炎を吐くごとに飢餓感が増していく。 体力を消耗するのだ。あまりの飢餓感に人間を見ると食欲が沸いた。農民 […]
洞窟に帰ってきた直後、闇から現れしザリチュは帰ってきた俺を褒め称えた。 「よくやった。新しき闇の者よ。闇の竜は闇の者でも最強の証。そなたなら将来暗黒 竜王アーリマンの一部となれるであろうぞ」 「ありがたき幸せ」 「ところ […]
闇の者は闇があれば暗黒の宇宙でさえも自由にどこへでも行ける。それは精神体で もあり、肉体でもあった。闇にとろけさせる時が至福の時であった。闇の者が闇その ものになり同化するときは、闇はこれ以上の絶望を与えることはない。闇 […]
「おお、暗黒竜王子が見えるぞ」 魔たちがざわめいた。 それはアジ・ダハーカと呼ばれた竜であった。俺と同じ暗黒竜で三口、三頭、六眼 をそなえ、尾は再び三つに岐がる。美しきも惨酷な多頭竜にして暗黒竜であった。 「なんでもアー […]
闇と絶望と砂漠が支配する大地、ペルシャ。その小国に1人の王がいた。とはいえ 手には鍬を持ち、畑を耕していた。相次ぐ人間同士の戦乱、増え続ける魔族の襲撃で 王族や王といえども生き残るためには数少ない人間とともに食糧確保に努 […]
獣人や竜人、鳥人……様々な魔が一挙に攻めてくる! 門を閉じ、矢で迎撃するが鳥人の剣によってあえなく倒れる。 ひたすら逃げるカーグ。無理もない。13歳なのだ。 横目で冷ややかに見る村人達。 逃げた先はアフラ神の祠であった。 […]
石の門を開け、剣を掲げながら火が放たれた村の中で魔物の一群に攻め入る王。 なんと剣から光から出るではないか。 「ぐぎゃあああ!」断末魔が響く。なんと次々消滅していく。 だがそこに鳥人が急降下して剣を振り下ろす。 間一髪で […]
村人達は翌朝石の門から出て行き、この村の有様を見て、絶望し、肉親の死を嘆き 悲しみ、墓を作って行った。 突然武装した兵が王の周りを囲む 「王よ、議長からお話がある、来るのだ」 俺は仕方なく村長の家に行った。そこに王座があ […]
旅の途中、銀で作られた王家のメダルを売った。俺はもう追放されたのだ。無意味 なものだった。こんなメダルなど、もう見たくも無かった。そのお金で代わりに馬を 買った。移動距離が大幅に増えた。太陽が出ていれば、馬に乗りながら砂 […]
―そこは闇の洞窟 「タルウィよ、厄介なことに例の光の剣士がお前の故郷に来ているぞ」 ザリチュが言った。 行く先々で自分が破壊した街の人間を魔族にした者を光に帰しているという。 もちろん報告で知っていたが、そのスピードは計 […]
―俺は目の前の仇敵から逃げているのだろうか。 今日も故郷の王宮の跡地に泊まることとした。瓦礫の山であったが、地下はまだ使え そうな場所があった。調理人がよく使っていた簡易ベッドもあった。簡易ベッドを直 してそこを寝床にし […]
「お前か!アフラの加護を受けた剣士とは。ここで死んでもらう!」 飛翔しながら王宮跡地に業火を撒き散らすタルウィ。 あわてて王宮内に逃げ込むカーグ。 それを爪と尾で破壊しながら進んでいくタルウィ。 「逃げるだけが能なのか。 […]
―古代ペルシャ。常に光の神と闇の神が戦う場― 人々は病におののき、飢えに苦しみ、神への怒りとあきらめと反逆と背徳にふけっ ていた。しかし、絶望と闇は光の戦士によって再び光の大地に戻りつつあった。しか し、そんな光を再びも […]
闇は闇である限りどこへでも行ける。ヴィシャップはさっそく夕闇にアルボルズ山 脈の洞窟で闇の中へとろけさせ、西のアララト山の洞窟に移動した。南側は相変わら ず光が強き世界だった。だが、光の弱い北方はアフラの信仰もなく、人々 […]
広大な遊牧民が行き交う北の大地。そこに1人の青年が倒れていた― 遊牧民が拾い上げたのだ。 遊牧民達は魔の侵攻に怯え、ある部族は冬に凍土となるより北の大地に、ある者は 西に、ある部族は東の砂漠に、そしてこの部族は西南である […]
「魔軍がせめてきたぞー」 見張りの騎馬兵が大声で本隊に報告してきた。騎馬隊の後ろには多数の竜人や鳥人 、獣人がいる! 弓矢を放ち、石弓で石を投石する。さらに筒のようなものから火炎を出し、自らも 火炎を吐くではないか。騎馬 […]
草原を一頭の馬が駆け巡る。アルトゥスであった。 羊皮紙の地図に印がついてある場に向かっていった。そこは山を抜けペルシャ帝国 の中にあった。山を上り下っていく。難行であった。何度も崖から落ちそうになった 。下山できるころに […]
ミスラ像の前に立つアルトゥス。 その石の杖を引き抜こうとした時に声が聞こえた。 ―そなたは竜の血を引くのじゃな。 「なぜ私は竜の血を引いているのですか?ミスラ様?」 ―それを知るとそなたは正気を保てなくなるぞ。しかし、い […]
カーグ藩王国は魔のものどもが集うとされた北にはアルボルズ山脈が見える位置に いる小国である。アルトゥスは母国アルメニアに帰る前に石の杖を光の剣とする修羅 剣があるカーグ藩王国の墓地に行くためだ。 カーグ藩王国は人々がよう […]
宴会の席を逃げ惑うアルトゥス。厨房を潜り抜け、多数ある部屋を出るとそこは昼 に訪れたカーグ14世の墓だった。だが、兵たちが追いつく。 「これは好都合。さあ、貴様の持っているその石の杖をここで剣にするのだ」 周り中剣や槍に […]
逃げたのは兵士だけではなかった。 「竜が攻めてきたぞ」「滅びの時が来る!」 半狂乱、パニックに陥る城内。いや、城内だけではなかった。門兵を通じて城下町 にまで伝わってしまった。 城内の兵士がいっせいにきりつけていく。 恐 […]
アルボルズ山脈の西側を越えると、懐かしい光景が飛び込んできた。故郷だ。だが 、その先にあったはずの故郷の草原は暗雲が多い、雷光がほとばしる。さらにその先 に暗黒の城が聳え立つ。そこは暗黒の主に支配された大地であった。大地 […]
突然の光の戦士登場は魔物を混乱に陥れた。 かつての光の戦士カーグの再来と恐れ魔都は恐慌状態に陥った。 半魔をなぎ倒して我先とペルシャに逃げる者、闇へと溶けてペルシャに戻るもの、 様々であった。魔の力は虚構であり、大軍であ […]
あれが暗黒竜の城……。 大軍の騎馬隊が固唾を呑んだ。 その城には人柱にされたもの、石化された人間の首、ありとあらゆる毒草……。 様々な魔の彫刻。 醜悪で尊大な邪悪が集大成させればこうなるのであろうか。寄せ集めた悪の美の結 […]
目がさめたのは一週間後だった。遊牧民のテントの中だった。 奇跡的に生き残った小隊の隊長がテントを作ったのだった。 「王よ、ご無事で。」 「俺を王だなんて呼ぶな」 「いいえ、王です。今は焦土と化した大地ですが、我々は遊牧民 […]
アルボルズ山脈のはるか東の天空に城が聳え立っていた。天空人はそこを善見城と いっていた。かつてここは天帝アフラ神が支配していた。しかし、地下の暗黒世界に 蠢く鬼神らが光の憧れから、天への侵略を行なった。正義の神阿修羅族を […]
半魔たちや魔たちの断末魔がこの天空にも聞こえる。そして元々人間だった魔の決 死の声も…。 白きローブを纏い、艶かしい白き肌と白き長髪、金の瞳を持つ者が玉座に座る。帝 釈天であった。 「また光と正義の名の下に破壊と死が生ま […]
―ぐはっ!まぶしい! ヴィシャップを化身としていたため、光線のダメージは母体であるアジ・ダハーカ をも襲った。ぜぜい、ぜい。三頭三口が悪態をつく。体中が光の筋による攻撃をあび 、闇色が溶けて灰色になっている。細かい傷があ […]
遊牧民族は颯爽と大地を駆け巡る。 交易を行い、じぐざぐに西への道を目指すアルトゥスたち。 希望に満ちながら彼らは赤竜の旗をなびかせていた。 今日も野営をしてキャンプを張っていた。南には静かな黒き海が渚で小波の音が響 く。 […]
狼人、狐人、猫人、牛人、蛇人……さまざまな幼き武装兵は人間の里を避けながら 北へ向かっていた。そのリーダーにわずか4歳の上半身人間、下半身が黒の蛇である 半人半蛇の男の子がいた。袋を持ち、大事な石版をそこにしまっていた。 […]
アジ・ラーフラたちはカザン近郊で農家にいたずらをした。 近所の森に穴を堀り、そこををねぐらとした。そこから農作物を盗み、代わりに盗 んだ貴金属を農家に置いたり、お詫びとして農作業を夜に手伝ったりした。 農家たちはやがて妖 […]
善見城に持って行ったインドラはミスラの剣を床に置き、魔力を剣に放った。する と剣の呪縛が解けていった。そこにいたのはまごうことなき光の鎧をまとった光の神 である。姿を見届けると、インドラは天帝の座についた。だが姿は暗黒戦 […]
農民の剣と鞭がレノンに向かう。そのたびに悲鳴が深き森に響く。 「やめろう!やめるんだ~」「貴様らゆるさねえ!ぶっ殺す」柱に縛られたままガルル ル……と威嚇しながら狼子ケイナが叫んだ。その声はもはや悲鳴に近かった。 ミスラ […]
レノン、ケイナらは夜明けにアジ・ラーフラらがこもっている洞窟に戻った。 ミスラ神とともに。 あまりにも神々しいその姿にアジ・ラーフラもひざまずく。 ―よしなさい。 そういうと下半身の蛇の体に光の杖を当てた。 さらにレノン […]
闇の勢力の被害は甚大であった。光のものどもにことごとくやられてしまった。大 魔たちも欠けている状態であった。 生き残った魔のものどもを洞窟に集めさせ王はこう言った。 「我はこれから人間の王を誘惑させ、人間の王国を中から乗 […]
この作品は古代ペルシャの宗教であるゾロアスター教をもとに書いたドラゴン小説で す。闇と光の戦いを照らし合わせて書かれたものですが、完全にイコールではなく「 空想世界のゾロアスター教」として解釈していただけたら幸いです。 […]
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