レアリテ飼育生物

大和柚希

ルポ

1,913文字

毒家サヴァイヴァーは、更なる広い世界でサヴァイヴします!

 退職を決めた。
 大学時代から一度も進む事の無かった選考で採用され、就労支援事業まで利用して有り付いた仕事の。私にとっては障害者雇用ながらも、学校を出てからようやく就けた職だった。しかし、もう自分が一般社会で使い物にならない状態だ。
  

 両親と医師が結託して受けさせた、電気痙攣療法、と言う「療法」とも言い難い医療行為。これで私はそれ以前の記憶がほぼ消えている。影響は以後にも及び、特に「療法」を受けた二月近辺になると、激烈な頭痛、そして恐怖を根本とした混乱に襲われるのだ。意識が混濁し、自分の存在を把握する事もままならない。
 記憶が消えた、消されただけでも当人にとっては相応の苦痛だと言うのに、十五年に亘って毎冬に必ずこの惨害が招かれる。私は「療法」を承諾した訳でも、同意の旨を記した訳でも無かった。その上で何故に、この体験を味わう必要があるのか。
 現在に通院している精神科の医師も、周囲も、こう話す。
  

「いつかは家族と仲直りをしなさい」
  

 何も分かっていない、そう思う。だから、当方は曖昧に笑って言葉を濁し、遣り過ごす。
 仲直り、と言う表現がおかしい。先方が行った事に当方が耐え続ける。どうしてそこで仲を直さなければならない。元から私は関係の構築などを彼等に求めては居ないのだ。
 「療法」を受けてからと言うもの、私は廃人と大差が無い状態のまま閉鎖病棟で過ごす。転院は行ったのだが、そこでは字義の通りに「腫れ物」として扱われた。少しでも刺激を与えると、腐った中身が噴出しそうな。
 実際に自分は同様だった。何かを言われると即座に相手を敵視し、世界から締め出す。誰も、そして何も信用がされない。
 私は緊急指定病院の入院期限を過ぎても、病棟の残留を勧められた。
  


  

 直近に、実家の事情を知る友人からこう言った文書が自分に届く。
  

「どうしてあなたがそこまでされて、実家と関係を切らないのか私には分からない」
  

 仲直りしろ、とは反対を行く意見に、私は脳内が覚醒する意識を持った。
 両親の言い分はこうだ。
  

「当初は判断が冷静に出来なかった」
「けれども、転院した病院でも勧められた『治療』は断っている」
「その時は得るものと失うものの判断が出来たからだ」
  

 対し、私はこう考える。
  

「過ちを更なる過ちで塗り潰しているだけでは」
  

 つまりは、言い訳を重ねるな、と。両親は退院して自室にひきこもった私へ、様々な罵声を投げた。
  

「お前が居るとこの家庭はどうなっている、と思われるから恥ずかしい」
「うちが家族崩壊の寸前にあるのは、全部お前の所為だ」
「お荷物にしかならないから、家を出て行ってくれ」
  


  

 望み通りに現在の私は、実家と離れて独居している。戻るつもりは一切に無い。そこには両親、あと実弟が居るそうだが、三者がどうなろうと遺産の生前贈与、そして必要な手続きが出来たら当方にとっての用が済む。
 退職を行うに当たり、これからは受けた実際を活用しなければ、人生、ひいては自分の存在が余りに浮かばれない。
 あろう事か、父親と実弟は医師だ。母親も医療関係の資格を有している。彼等が人間に電流を掛ける危険を理解されなかった事に当方は理解をされないが、一切はもう遅い。私の生活は自力で再建するべきだ。
 実弟は精神科に通う姉が気持ち悪い、成人してもそう言い続けているらしい。それでよく医師が務まるものだ、と当方は言いたいが余計だろう。
  


  

 実家の面子へ、自分は何を残すのだろうか。
 飼育される動物と同様の立場を味わった当方は、彼等を動物よりも下の存在と見做している。金銭だけを稼ぎ、中身が貧困な生き物。自分は稼げなくとも、せめて内容は豊穣で居たい。
 中身を持たない人間は、幾らに社会で認められようと、金銭に恵まれようと、結果として不幸だ。その本質は自己を持たないが為に、「自分が惨め」だと言う実際へ気付かない姿にあると思う。私は身近な存在により、この事実を目の当たりにした。
  

 空疎なままで生きて下さい。
 私はそれより遙か上を行きます。
 ありがとう、可哀想な生き物たち。

2018年1月11日公開

© 2018 大和柚希

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