人魚は水になった

本宮ふみ

797文字

ポエトリーリーディング用の詩だったものに加筆しました。

男は木こりの仕事をしていた。

しかし、冬場は仕事がなく、とても退屈だった。ずっと山小屋で一人過ごしていた。

今年の冬は、山小屋にもインターネット回線が引かれた。

久しぶりに海産物の仕入れでもしようと、男はたどたどしくパソコンのキーボードを叩く。

すると妙なものを販売しているのを見つけた。

『人魚一頭限定入荷』

人魚とはなんだろうか。水を用意しなければいけないのだろうか。浴槽でもいいのだろうか。海水はどの位の濃度なのだろうか。自分が知らないだけで、

流行りの珍味なのだろうか。

しかし、人魚を購入して人はどうするのだろうか。ひょっとすると見世物小屋行きになるのだろうか。

 

そんな男の家に大きな段ボールが届いて一ヶ月近くになった。

 

きらきら光るライターの炎

煙草にやさしく火をつける

きらきら光る君の指先

その凹凸(おうとつ)を指でそっとなぞる

きらきら光る街の灯り

大袈裟なぐらい光り輝く

浴槽で飼っている人魚は食事を行わず

日々衰えていくばかり

このままでは死んでしまうと街一番の医者を呼ぶ

吹雪の中やってきた医者は

医者「これではもう駄目です、春までもうもちません」

と言って嫌がる人魚に点滴を打った

人魚は泣く、人魚は泣く

泣いている人魚のためにケーキを焼く

ラズベリーがたくさん乗っているケーキを

きっと、泣きやんでくれると思って

心をこめて焼く

海にだけは帰って欲しくない

ここにいて欲しい

独りにしないでくれ

もっと生きてくれ

人間なんかに憧れなくていい

僕は君を愛しているんだ

人間なんかに憧れなくていい

何もいいことはない

 

ケーキが焼き上がりバスタブを覗いたがもう既に人魚の姿はなかった。

 

人魚は水になった

下水道に流れて消えた美しい人魚

空いたバスタブ

空っぽの心

埋めてくれ

心を埋めてくれ

もう必要がない

最後の願いだ

僕は何年もかけて土になった

君に恋焦がれていた年月よりも長く

馬鹿みたいだ、馬鹿みたいに惨めだ

2022年5月6日公開

© 2022 本宮ふみ

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