黒川祐希

407文字

詩です。自分が知らないことについてよく考えます。

僕は羊です
体は細長くて赤茶色
よくあなたの家のトイレにいます

 

山羊は隣町の床屋で
羊飼いに飼われていて
ときおりごみ収集車とともに
あなたの寝顔を覗きにきます

 

あなたが眠っているあいだ
世界がおかしな風になっているのを
反映するのが夢なのです

 

遠い国の祭りでは
赤や緑のベルベットが
華やかな囃子に急かされて
寝室のなかを行き交っています

 

あなたが下痢に襲われて
大便器に腰かけるとき
目やにで汚れた目に僕が映ることはありません
僕はずっとあなたを見ているのに
あなたは起きていながらも夢のなかにいるようです

 

なんのためにコーヒーを飲むのか
考えたことはないでしょう
それは日中の覚醒を促すためでなく
僕とのコンタクトの機会をうかがっているのですよ

 

僕は、偏在する羊
平等に存在する生き物として
いつもあなたを見守っています

 

優しさが持つ怪しい思惑や
嘘のための修辞学を知っています

2021年3月10日公開

© 2021 黒川祐希

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