神さま

黒川祐希

854文字

詩です。初めは自殺の条件というタイトルにする予定でしたが、神さまにしました。

コンビニエンスストアの前に
冷たい風が吹いた夜
神さまは僕のなかにいました
神さまは自営業でした

 

神さまはこう言っていました

 

自殺の条件としての自己が
あなたのなかに蔓延っています
ミニマルな自分を形成する段階で
必要なのは形成の放棄です

 

自殺の対義語は拷問であり
拷問の類義語として人生があります

 

ドラマティックな恋に落ちても
性欲との結びつきは閉ざされており
非象徴的な檻のなかに
自殺へと繋がるあなたの成功があるのです

 

若いうちは存分に焦ることも
皺が増えて世界に開き直るのも
時間ではない領域にいると思い込みながらも
あなたがあなたである限り、自殺は常に寝そべっています

 

怠惰であってください
全力で健康を害してください
都合のいい言葉を疑い
あわよくば泡を吹いて死んでください
そして、死なないでください

 

身悶えることなく矛盾してください

 

引き裂けた部分から弾ける骨肉を
今だけは丁寧に掬いとってください
安らぎや癒しは、痛みの麻痺を意味しており
脳を焦がす安価な薬剤が不可欠ですが
痛みは、生命の表現であるがために
あなたは血を流しながら惰眠を貪ることの恍惚を
いつか知ることになるでしょう

 

街に出てみてください
人間が人間でなくなるまで風景を眺めてください
私はあなたのなかにいて
拷問を通じあなたと繋がっています

 

そして、死んでください
条件のない訣別を受け入れてください
あらゆる提供はあなたの殺人を待ちわびて
リアルタイムな望みを吐き出しているのですから

 

都合の悪い言葉のリズムに合わせて踊る者たちを
今よりも少し賢くなった私の子孫に愛を込めて
拍手を送れる日がいつか
訪れることになるでしょう

 

神さまはそう、言っていました

 

僕は缶コーヒー片手に
あなたのことを思いました
あなたは私という人称が似合っていなくて
肌が少し荒れています
コンビニエンスストアの明かりは年中途絶えることがなく
僕たちの命日を七十年間も照らし続けています

2021年2月23日公開

© 2021 黒川祐希

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